症例
名古屋 上顎に残った3本を抜歯し、4本のインプラントによるオーバーデンチャーで「見た目」と「使いやすさ」を両立した症例|67歳男性
-
治療前

-
治療後

患者背景と症例概要
症例まとめ(Case Summary)
年齢・性別:67歳男性
主訴:笑った時に歯が見えない、入れ歯が落ちる・ゆるい
背景:上顎は残存歯3本、長年の部分入れ歯使用歴あり
治療内容:残存歯3本を戦略的抜歯、上顎4本インプラント埋入、骨造成、インプラントオーバーデンチャー製作
治療期間:約6か月
費用:170万円(税込)
結果:口蓋の被覆を減らし、見た目・安定性・清掃性を両立
「入れ歯が落ちてくる」「作り直すたびにまた歯が悪くなる」。こうした悩みは、単に入れ歯が合っていないという問題だけでなく、残っている歯の本数、噛み合わせ、歯の並び、そして最終的にどのような補綴物を目指すかという設計全体の問題であることが少なくありません。
今回ご紹介するのは、67歳男性の患者様です。主訴は「笑った時に上の歯がまったく見えないのが嫌」「もう落ちる入れ歯には耐えられない」というものでした。患者様は40代で上顎臼歯部を失って以降、長年にわたり部分入れ歯を使用されていました。しかし、入れ歯を作り直すたびに支えとなる歯へ負担がかかり、新たなトラブルが起こり、欠損範囲がさらに広がるという経過をたどっていました。

来院時、上顎には3本のみ歯が残っており、それらを支えに部分的な人工歯が装着されていました。ただし、若い頃から強いブラキシズムがあり、残存歯も歯質の摩耗が進行している状態でした。患者様が求めていたのは、単に噛めるようになることではなく、「笑った時に自然に歯が見えること」と「外れにくく、違和感の少ない方法で長く使えること」でした。

このようなケースでは、残っている歯を守ること自体が必ずしも最善とは限りません。見た目、安定性、清掃性、将来の再治療リスクまで含めて総合的に考える必要があります。部分入れ歯でお困りの方は、まず現在の状態を正確に整理することが大切です。
→ 部分入れ歯とインプラントの比較
初診時の診断
初診時には、単純にCTで骨量を見るだけではなく、最終的にどの位置へ歯を並べるべきかを先に決め、その理想位置から逆算してインプラント位置を設計することが非常に重要です。これは、インプラント治療を「骨のある場所に入れる治療」ではなく、「最終補綴物をどこに置くかから組み立てる治療」と考えているためです。
本症例では、見た目の回復が大きな目的でした。そのため、まず理想的な歯の位置を仮義歯上で設定し、その情報をCTと重ね合わせて診断しました。CTだけを見れば全体として骨は存在しているように見える一方、理想的な歯の位置に対応するインプラント埋入部位では、十分な骨幅が得られていない部位があることが明らかになることは非常に多いです。しかし、今回は、理想な位置に必要十分な骨がありました。骨幅は全ての位置で8ミリあり、骨高は全体として約12mm確保できており、高さの面でも大きな問題はありませんでした。
また、口腔衛生状態は良好とは言えず、来院時にはプラークや歯石の沈着が多く認められました。残存歯そのものを単独で見れば保存可能に見える部分もありましたが、強いブラキシズム、清掃性、残存本数、今後の支持能力を総合的に考えると、部分入れ歯の延命を図っても再治療の連鎖を断ち切るのは難しいと判断しました。
骨量不足の判断は、単純な数値だけではなく、どの位置にどの方向で埋入するかまで含めて評価することが重要です。

治療計画と設計思想
治療計画では、患者様の希望だけでなく、長期安定性、清掃性、再治療リスク、身体的条件まで含めて複数の選択肢を比較しました。
第一の選択肢は、残存歯3本を保存しながら部分入れ歯を継続する方法です。しかしこの案では、支台歯の本数が少なく、しかもブラキシズムによる歯質の摩耗が進んでいたため、今後も支えの歯に過度な負担が集中することが予測されました。患者様はこれまでまさにその経過を経験されており、同じ問題を繰り返す可能性が高いと考えられました。
第二の選択肢は、通常の総入れ歯です。実は上顎の総義歯は、適切な手順で精密に作製すれば、一定の安定性を得やすい装置です。そのため当院では、患者様が最初から「取れないもの」を希望されていたとしても、いきなりインプラント前提で進めるのではなく、まず総義歯を経験していただくことを提案しました。これにより、通常の総義歯で十分満足できるのであれば、侵襲や費用を抑えた治療で完結できる可能性があるからです。
しかし本症例では、仮義歯の段階で上顎口蓋部の被覆による違和感が強く、嘔吐反射も認められました。そのため、通常の総義歯では患者満足を十分に得にくいと判断しました。そこで第三の選択肢として、上顎4本のインプラントによるオーバーデンチャーを計画しました。上顎では、オーバーデンチャーの支持・維持・安定をしっかり得て、かつ口蓋を薄く、あるいは一部除去した設計を実現するためには、2本では不十分で、4本以上が世界的なコンセンサスで妥当と考えています。

一方、固定性の総入れ歯、いわゆるオールオン4も選択肢としては存在しました。ただし本症例では、患者様の年齢に加え、過去のご病気の影響で手の動きに不自由さがあり、ブラッシングを極めて精密に継続することが難しい背景がありました。固定性補綴は見た目や装着感に優れる一方、清掃不良が起こるとトラブルが大きくなりやすいため、この患者様にはリスクが高いと判断しました。取り外し可能なオーバーデンチャーであれば、患者様自身も清掃しやすく、術者側も定期管理がしやすくなります。
最終的に、残存歯3本は戦略的に抜歯し、同時に4本のインプラントを埋入、必要部位には骨造成を行い、治癒期間中は仮の総義歯を使用し、その後インプラントオーバーデンチャーへ移行する方針としました。
設計上、重要視したのは、単に「インプラントを入れる本数」ではなく、どのように長く安定して使えるかです。咬合接触は強いブラキシズムを考慮し、過大な側方力が集中しないようコントロールしました。また、最終義歯の歯の位置は患者様の希望を反映し、試適時に1〜2mm単位で位置や長さを調整しながら、自然に笑った時に見えるスマイルラインを整えました。さらに、固定方式は清掃性と保守性を優先し、患者様が日常生活で扱いやすく、かつ定期メンテナンス時に確実に管理できる方向で設計しました。
手術と治療経過
治療はまず上顎の残存歯3本を抜歯し、同日に4本のインプラントを埋入する形で行いました。使用したインプラントはストローマン社製で、右側臼歯部の骨幅不足部位には同時に骨造成を併用しました。手術時間は約2時間で、抜歯・埋入・骨造成までを一回で完了しています。
術後はただちに仮の上顎総義歯を装着し、インプラントと骨が結合するまでの約3か月間使用していただきました。この期間は、単なる待機期間ではなく、見た目、発音、咬み心地、口唇支持、スマイル時の歯の見え方を確認する重要な時間でもあります。仮義歯を経ることで、最終補綴物の設計精度をより高めることができます。
術後の腫れや痛みは多少認めましたが、1週間程度で落ち着き、大きな合併症はありませんでした。3か月後には軟組織の治癒も良好で、インプラントの初期固定および固定も問題なく確認できたため、次の補綴ステップへ進みました。
その段階で改めて患者様の反応を確認すると、「入れ歯が外れること」そのものよりも、「口蓋が覆われている不快感」がより大きな問題であることがはっきりしました。そこで、上顎4本のインプラントを活かしたオーバーデンチャーへ移行し、口蓋部の被覆を減らした設計を採用しました。これにより、通常の総義歯より違和感を軽減しつつ、固定性補綴ほど清掃の負担を増やさない中間的で現実的な解決策を実現できました。

最終補綴の製作では、歯の排列、前歯の見え方、笑顔のバランスを綿密に確認し、患者様の希望に合わせて1〜2mm単位で修正を行いました。その結果、「笑った時に歯が見えない」という当初の悩みが改善し、見た目にも自然な表情を取り戻すことができました。
手術成功だけでなく、仮義歯から最終義歯へどう移行するかが、患者満足度を大きく左右します。
長期管理と歯科医師の解説
本症例では、最終補綴装着後も3〜4か月に1回の定期メンテナンスを継続しています。インプラントオーバーデンチャーは、固定性補綴と比較して取り外しが可能なため、患者様自身が日常清掃を行いやすく、医療者側も支台装置や粘膜面の状態を直接確認しやすいという利点があります。特に、手指の巧緻性が高くない方や、長期的なセルフケアに不安がある方にとっては、管理しやすさそのものが治療成績に直結します。
また、ブラキシズムの既往がある患者様では、インプラント体そのものだけでなく、アタッチメント、義歯の人工歯、咬耗、維持力の変化まで含めて追っていく必要があります。インプラント治療は「入れたら終わり」ではなく、補綴物を安定して使い続けるための管理まで含めて治療です。
FAQ
Q1. 上顎の総入れ歯は、必ずインプラントにした方がいいですか?
必ずしもそうではありません。上顎の総義歯は、適切に製作すれば安定しやすい場合もあります。ただし、口蓋の違和感が強い方や、見た目・保持力の改善をより求める方では、インプラントが有効なことがあります。
Q2. なぜ固定式のオールオン4ではなく、オーバーデンチャーにしたのですか?
本症例では、清掃性と長期管理のしやすさを優先しました。固定式は魅力的な方法ですが、患者様ごとの手入れのしやすさまで考えて適応を決めることが重要です。
Q3. 上顎ではなぜ4本必要だったのですか?
上顎は骨質や力のかかり方の点から、下顎より安定性の確保が難しいことがあります。口蓋被覆を減らしてオーバーデンチャーの利点を十分に出すためにも、4本での支持設計が合理的でした。
Q4. 骨造成が必要だと治療は難しくなりますか?
難易度は上がりますが、理想的な位置に補綴物を置くために必要な処置であれば重要です。骨がある場所へ妥協して埋入すると、見た目や清掃性に問題が残ることがあります。
Q5. インプラントオーバーデンチャーは見た目もきれいになりますか?
はい。人工歯の位置、長さ、唇の支え方まで調整できるため、見た目の改善にも有利です。本症例でも、笑った時の歯の見え方を細かく調整しました。
歯科医師として本症例で重要だと考えたのは、「残せる歯を残すこと」より「患者様にとって長期的に意味のある形をつくること」を優先した点です。残存歯3本は単独では保存可能に見えても、口腔全体で見たときに将来の安定に寄与しにくいと判断しました。インプラントは埋入本数だけで語られがちですが、本当に大切なのは、その人にとって管理しやすく、壊れにくく、納得して使い続けられる補綴設計になっているかです。
→ インプラント周囲炎を防ぐために大切なこと
→ インプラントメンテナンスの重要性
治療のリスク・副作用・費用・期間
治療期間
約6か月(抜歯、インプラント埋入、骨治癒、補綴治療を含む)
費用
170万円(税込)
※自由診療です。診断内容や処置範囲により変動する場合があります。
リスク・副作用
・術後に腫れや痛み、内出血が生じることがあります
・骨の状態によっては骨造成などの追加処置が必要になる場合があります
・インプラント体と骨が十分に結合しないことがあります
・ブラキシズムや清掃不良により、補綴物の破損やトラブルが起こることがあります
・インプラント周囲炎を防ぐため、継続的なメンテナンスが重要です
名古屋でインプラント治療を検討されている方へ。
名古屋のインプラント症例をまとめて見たい方は、【名古屋のインプラント症例一覧】をご覧ください。
監修者情報

EDEN DENTAL OFFICE (エデン デンタル オフィス)
院長 村井亮介
名古屋中区の伏見駅から徒歩2分の「エデンデンタルオフィス」では、米国補綴専門医の資格を持つ院長が、10年、20年先を見据えた精密な治療を提供します。歯科医院特有の緊張感を和らげるため、家族のように寄り添う丁寧な対話を重視。患者様の背景や「どうなりたいか」という想いを深く汲み取り、できる限りの最高の治療クオリティーを常に心掛けております。
経歴
- 愛知学院大学歯学部歯学科卒業
- 大手歯科医療法人勤務
- インディアナ大学歯学部補綴科卒業
資格
- 米国補綴専門医
所属学会
- 日本補綴歯科学会
- ACP american academy of prosthodontics member
- ITI international team
for implntology 会員 - AO academy of
osseointegration 会員
CONSULTATION 無料相談・セカンドオピニオン
インプラントをはじめ、審美補綴や義歯などの外科的治療に関するご相談を承っております。その他の治療内容についてもお気軽にお問い合わせ下さい。



