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奥歯だけが崩壊している場合の設計

奥歯だけが壊れている状態を、全体の問題として考える理由

奥歯だけが壊れている状態は、奥歯だけを直せば終わる状態ではないことが多くあります。奥歯は噛む力を受け止める場所であり、そこが崩れると噛み合わせの高さや面のカーブまで一緒に変わっていくためです。名古屋で奥歯がボロボロの状態をご相談いただくとき、私がまず確認するのはこの点です。なお、上下の歯が完全に食い違って噛む場所が1組もない状態は別の問題として扱います。この記事では、奥歯の支えが崩れた段階でどこまでを設計の範囲に入れるかを、順にご説明します。

この記事でわかること

  • 「奥歯だけ」が進行の途中段階を指す言葉であることが分かります
  • 奥歯を作り直す3つの方向と、それぞれの報告値が分かります
  • 奥歯を全部そろえない設計という選択肢があることが分かります
  • 相談の前に、ご自身で整理しておけることが決まります

「奥歯だけ」は、状態名ではなく段階を指す言葉です

臼歯部咬合崩壊という言葉があります。奥歯の噛み合わせの支えが壊れていく状態を指す言葉です。谷田部優氏(2023年、日本補綴歯科学会誌15巻1号)は、この状態を放置した場合に起きうることとして3つを挙げています。噛み合わせの高さが低くなること、噛み合わせの面のカーブが乱れること、そして上下の歯が食い違って噛む場所を失う状態へ進むことです。

同じ論文は、その結果として補綴治療の難易度が高くなる、とも述べています。ここで大切なのは、これらが奥歯の中だけで完結しない変化だという点です。高さが低くなれば前歯の当たり方が変わります。面のカーブが乱れれば、残った歯の当たる場所も移ります。

ですから「奥歯だけ」という言い方は、状態の名前ではありません。どこまで進んだかを示す段階の名前です。前歯で噛めている段階なのか、高さまで下がった段階なのかで、設計の範囲が変わります。上下の噛む場所を完全に失った状態は、さらに別の課題を持ちます。この記事は、その手前の段階を扱います。

奥歯から先に壊れるのは、珍しいことではありません

奥歯が先に崩れると、自分の手入れが悪かったからだと考えてしまう方がいらっしゃいます。ただ、統計を見ると奥歯は構造的に負担が集まる場所です。

花田隆宏氏らの調査(2018年、日本歯科保存学雑誌61巻3号)は、長野県上伊那地区の56の歯科医院で、患者804名の抜歯原因を調べたものです。この調査では、親知らずを除いても大臼歯が抜歯の30%を占めていました。原因の内訳は慢性歯周炎26%、親知らずの周囲の炎症23%、根の先の炎症21%、歯の破折20%、むし歯9%です。

破折が2割を占めている点にご注目ください。同じ調査では、破折による抜歯には歯のすり減りやくさび状の欠けが関わっていたとされています。つまり奥歯は、むし歯だけで失われているわけではありません。噛む力そのものが原因の一部になっています。

前歯が無事に見えるのは、代わりに働いているからです

奥歯が崩れても、前歯は残っていることがよくあります。ただ、前歯は本来、噛み切る役割の歯です。すりつぶす力を受け続ける構造にはなっていません。奥歯の支えが減ると、その力が前歯側へ移っていきます。

この状態が続くと、次に前歯側が傷んできます。順番として奥歯が先に壊れ、あとから前歯が追いかける形です。前歯の側が主戦場になっている場合の設計は、扱う問題が変わりますので別の記事にまとめました。

読み比べていただくと、どちらが今のご自身に近いか整理しやすくなります。

奥歯を1本ずつ順に直していく進め方と、全体をまとめて設計してから着手する進め方は、どちらもあります。その分かれ道そのものを扱った記事もあります。

この記事は、全体で考える場合に何を決めるかに絞ってご説明します。

名古屋で奥歯ボロボロの再建を考えるときの、設計の比較

奥歯を作り直す方向は、大きく3つあります

ひとつは固定式でつなぐ方向です。残った歯を支えにして、被せ物を橋のようにつなぎます。ふたつめは取り外し式で補う方向で、部分入れ歯を使います。みっつめは支えそのものを足す方向で、インプラントを土台に使います。

これらは排他的な選択ではありません。取り外し式にインプラントを組み合わせる設計もあります。どれを選ぶかは、残っている歯の位置と状態、毎日の手入れをどこまで続けられるかで決まります。

以下の数値は研究ごとに対象も期間も異なり、大小で優劣は決められません。

設計の方向 報告されている数値 利点 注意点・リスク・限界
固定式でつなぐ(3ユニットのブリッジ) 約10年で累積成功率88.1%、累積生存率92.3%(齋藤ら2023年、患者332名) 取り外す手間がない。噛む感覚が自分の歯に近い 歯根の破折は全例が神経のない歯で起きた。支えの状態に左右される
削る量を抑えた接着ブリッジ 成功率71.4%、生存率78.6%(同上) 歯を削る量が少ない 従来型より成績が低いと報告されている
取り外し式(二重構造の入れ歯) 2年94%、5年86%(Klotzら2024年、213床) 残った歯を支えとして活かせる。修理しやすい 66.2%が5年までに1回以上の手直しを経験
取り外し式にインプラントを足す 沈み込みが710μmから4〜14μmへ、応力は73〜84%低減(Messiasら2021年) 入れ歯の動きを力学的に大きく抑えられる コンピュータ上のシミュレーションで、臨床試験ではない
同上の臨床成績 インプラントの生存率94%以上(Shahmiri&Atieh 2010年、94名・183本) 侵襲を抑えながら支えを増やせる 対照群のない研究が中心。緩みや破損の報告もある
大臼歯部を作らない設計 38か月の歯の喪失に有意差なし(Khanら2014年) 治療範囲を限定できる 意図して設計した場合の話で、放置とは別物

※スマートフォンでは表を横にスクロールできます

噛む効率を決めているのは、本数ではありません

奥歯が何本ないかを気にされる方は多いのですが、研究が示しているのは別の軸です。Nedeljković氏ら(2023年、Medical Principles and Practice誌)は65歳以上の100名を対象に、上下で噛み合っている歯のペアという単位で分類しました。

その結果、本人が感じる噛みにくさと、実際に測った噛む効率の相関はr=0.742でした。噛みにくいという実感は、かなり正確に実態を反映しているということです。効率が高かったのは、自分の歯や固定式の被せ物でペアができている群でした。ペアがない群と、入れ歯の人工歯のペアの群が低くなっています。

ここから読めるのは、奥歯の再建で目指すのが本数の回復ではなく、噛み合うペアをどこに何組作るかだという点です。左右のどちらで噛んでいるかといった日常の情報が、配置を決める材料になります。

支えにする歯の中に神経のない歯が多い場合は、前提が変わります。その話は別の記事にまとめました。

支えの強さが読めないと、固定式か取り外し式かの判断も変わります。

「奥歯を全部そろえない」という設計もあります

大臼歯部を作らずに前歯から小臼歯までで機能させるという設計が、国際的に検討されてきました。短縮歯列と呼ばれる考え方です。

Khan氏ら(2014年、PLOS ONE誌)は、無作為化比較試験4件を含む研究をまとめ、機能・患者満足度・費用対効果の点で有望だと結論しています。38か月時点の歯の喪失に有意差はなく、栄養状態にも有意差は出ていません。一方で、生活の質の指標は入れ歯を入れた群で改善したという報告もあります。

誤解を避けるために申し添えます。これは「放置してよい」という意味ではありません。意図して範囲を決めて設計した場合の話です。それでも、この選択肢が机の上にあることは知っておいていただきたいと思います。選択肢が何通りあるかを整理したい方には、別の記事が近いはずです。

奥歯の再建で、正直にお伝えしている限界と注意点

高さを変えるなら、奥歯だけでは終わりません

奥歯が長く失われていたり、大きくすり減っていたりすると、噛み合わせの高さそのものが下がっていることがあります。この場合、高さを戻すかどうかが設計の分かれ道になります。

Yadfout氏ら(2024年、Clinical, Cosmetic and Investigational Dentistry誌)のレビューがあります。前歯の間で5mmを超えない範囲の高さの回復は、自分の歯が残っている方では安全と考えてよい、と整理されています。違和感は1〜2週間で落ち着くことが多く、歯ぎしりのある方では2か月程度を要する報告もあるとされています。

ただし同じレビューは、重要な限界も示しています。一部の歯だけを覆って高さを変えると、歯を支える骨の部分や筋肉、顎の関節に影響が出るとされる、という点です。前提は全体を覆う設計です。ですから高さを変える判断をした時点で、治療の範囲は奥歯を越えます。逆に言えば、高さを変えないで済むなら範囲は小さくできます。この見極めが、最初の検査でいちばん時間をかけるところです。

支えにする歯の状態で、選べる設計が変わります

固定式でつなぐ設計は、支えになる歯が力を受けられることが前提です。齋藤由美子氏ら(2023年、岩手医科大学歯学雑誌47巻2号)が患者332名を約10年追った研究では、ブリッジ全体の累積成功率は88.1%、生存率は92.3%でした。

同じ研究で注目すべきは失敗の内訳です。歯根の破折は、報告された症例のすべてが神経のない歯で起きていました。そのうち多くが金属製の土台を使っていたとされています。数としては少ないので断定はできませんが、支えの選び方が結果を左右する可能性は示されています。

歯ぐきの炎症が続いている場合も、順番が先にあります。土台が動いている間に固定式で固めても、設計が合わなくなるためです。むし歯と歯周病が同時に進んでいる場合の順序は、別の記事で詳しく扱っています。

歯周病が主な原因で歯を失ってきた場合の考え方も、別にまとめてあります。

期間と通院回数の現実もお伝えします

奥歯の再建は、支えの処置から仮歯での確認を経て最終の歯に至ります。高さを変える場合は、その確認期間が加わります。1回あたりの時間は短くできても、全体の回数は増えます。

また、取り外し式を選んだ場合は手直しが入ります。Klotz氏ら(2024年、Clinical Oral Investigations誌)の213床の研究では、5年までに66.2%が1回以上の合併症を経験しています。これは設計の失敗ではなく前提です。壊れたら直せる設計にしておく、という考え方をお伝えしています。

なお、奥歯の被せ物が金属で、見た目も一緒に変えたいというご希望は多くうかがいます。材料の守備範囲の話になりますので、別の記事に分けました。

相談の前に、ご自身で整理しておけること

  • ☑ 今どちら側で噛んでいるか。片側だけで噛んでいる期間が長いほど、力の偏りが設計に効いてきます
  • ☑ 避けている食べ物があるか。何が食べにくいかで、優先して作る場所の見当がつきます
  • ☑ 奥歯がない期間はどのくらいか。正確でなくて構いません。年数は責めるためではなく設計のために伺います
  • ☑ 手入れにどれだけ手をかけられるか。取り外し式か固定式かの判断に直結します
  • ☑ 通える頻度。期間の見通しを現実的に組むために必要な情報です

私が奥歯の再建で、着手前に決めていること

噛み合わせの面の基準を、どこに置くか

奥歯が長く失われていると、噛み合わせの面のカーブが崩れています。噛み合う相手を失った歯は少しずつ移動し、隣の歯は倒れ込みます。この状態で奥歯を作ろうとすると、そもそも基準になる面が残っていません。

私はまず、どこを基準にするかを決めます。残っている歯の中で位置が信頼できるものを探し、そこから面を描き直します。基準が見つからない場合は、顔の中での位置や上唇との関係から決めます。ここを決めずに個々の歯を作り始めると、あとから全体が合わなくなります。

米国インディアナ大学大学院で補綴学を学んでいたとき、指導医から繰り返し言われたのは「1本の歯を診る前に、顔と噛み合わせの全体を診ろ」ということでした。授業の中身も、個々の歯をどう治すかより、治療の順序をどう決めるかに大半の時間が割かれていました。奥歯の再建は、その教えがそのまま当てはまる場面です。

高さを変えるかどうかを、最初に決めます

先に触れたとおり、一部の歯だけで高さを変えると影響が出るとされています。ですから高さを変えるかどうかは、最初の1本に手をつける前に決めます。あとから変えると、それまでに作った歯をやり直すことになるためです。

判断の材料は、現在の高さがどれだけ下がっているか、下がったことで困っていることがあるか、そして残っている歯がどこまで力を受けられるかです。下がっていても困っていなければ、変えないという判断もあります。変えないほうが治療の範囲は小さく済みます。

若い頃に受けた治療が同じ時期に一斉に寿命を迎えると、この判断が難しくなります。壊れた場所が多すぎて、基準にできる歯が残らないためです。その状況については別の記事にまとめました。

仮歯は、完成形のテスト走行です

米国で驚いたことのひとつは、完成形の模型を先に作り、ゴールを共有して合意してから最初の1本に着手するという流れが徹底されていたことです。ゴールを決めずに走り出さない、という考え方でした。

仮歯についても同じで、仮の歯ではなく完成形のテスト走行だと教わりました。奥歯の再建では、仮歯の期間に確認することがいくつもあります。決めた高さで違和感なく噛めるか。描き直した面のカーブで、食べ物が滑らずに噛めるか。発音に支障が出ていないか。これらの答え合わせが済んでから、最終の歯に置き換えます。

私は通常なら歯科技工士に委ねる製作の工程まで自分の手で行ってきました。設計から製作まで一人で仕上げた入れ歯は100床近くになります。作る側から見ると、仮歯の段階で決まっていない条件が多いほど、最終の歯の精度は上がりません。ですから仮歯の期間は、急がずに使っていただきます。

原因が噛む力ではなく、飲食習慣による歯の溶けである場合は、確認する項目が変わります。

事故や外傷で奥歯を失った場合も、周囲の骨や軟らかい組織の条件が違うため設計の前提が変わります。

原因が違えば、仮歯で見るべきものも変わります。

長い経過を見てきて感じるのは、壊れた場所は結果であって、原因は噛み合わせ全体の力の流れにあることが多いということです。奥歯が先に壊れた理由を、奥歯の中だけで説明しないようにしています。

まとめ|名古屋で奥歯ボロボロの設計を考えるために

奥歯だけが崩壊している状態は、進行の途中段階です。噛み合わせの高さが下がっているか、面のカーブが乱れているかで、必要な設計の範囲が変わります。名古屋で奥歯がボロボロの状態をご相談いただくときは、まず高さを変えるかどうかを決め、次に噛み合うペアをどこに作るかを決めます。本数をそろえることが目的ではありません。

固定式・取り外し式・支えを足す設計のどれにも、報告された成績と限界があります。まず無料相談で、今どの段階にあるかを一緒に確認するところから始めていただければと思います。

状態ごとにどの設計パターンが当てはまるのかを、先に全体像から見たい方はハブ記事をご覧ください。

ご自身に近い状態の記事へ、そこから進んでいただけます。あわせて読みたい記事として、古い差し歯が同時期に寿命を迎えた場合の考え方。

と、見た目の回復を優先したい場合の整理。

を挙げておきます。

よくあるご質問

Q1. 奥歯が何年もない状態です。今から相談しても怒られませんか。

怒ることはありません。経緯をうかがうのは、これまでを評価するためではなく、これから何をどの順番で行うかを決めるためです。奥歯がない期間は、隣の歯がどれだけ動いたかの見当をつける材料になります。ですから年数を伺いますが、正確でなくて構いません。当院のカウンセリングルームは完全個室で、診療室は半個室です。話したくないことは、話さなくて構いません。まず無料相談だけで構いません。

Q2. 前歯は無事なので、奥歯だけ治せば済みませんか。

済む場合もあります。噛み合わせの高さが保たれていて、面のカーブも大きく崩れていなければ、範囲は奥歯にとどめられます。判断が変わるのは、高さが下がっている場合です。一部の歯だけを覆って高さを変えると、骨や筋肉、顎の関節に影響が出るとされています。ですから高さを変えるなら、範囲は奥歯を越えます。検査でどちらに当たるかを確認します。

Q3. 奥歯は入れなくても大丈夫だと言われたことがあります。

大臼歯部を作らずに機能させるという設計は、実際に研究されてきた考え方です。Khan氏らの2014年のまとめでは、機能や満足度、費用対効果の点で有望とされています。38か月時点の歯の喪失にも有意差は出ていません。ただし、これは意図して範囲を決めて設計した場合の話です。何もしないまま置いておくこととは違います。ご希望と状態の両方から判断します。

Q4. インプラントを勧められましたが、入れ歯でも噛めますか。

噛めます。ただし報告されている数値では、入れ歯の人工歯で作ったペアは、自分の歯や固定式の被せ物で作ったペアより噛む効率が低い傾向があります。動きを抑えたい場合に、入れ歯の支えとしてインプラントを少数本使う設計もあります。力学のシミュレーションでは、入れ歯の沈み込みが大きく減ったと報告されています。どこまで求めるかによって、選ぶ設計が変わります。

※お口の状態には個人差があり、適した治療や結果は人によって異なります。検査・診断のうえ、費用・期間・主なリスクをまとめてご説明します。無料相談は無料、セカンドオピニオン外来は5,500円(税込)です。当院は名古屋市中区栄、地下鉄「伏見駅」6番出口から徒歩2分にあります。完全予約制で、CTと口腔内スキャナーを備え、Zoomでのご相談にも対応しています。

監修者情報

EDEN DENTAL OFFICE (エデン デンタル オフィス)

院長 村井亮介

名古屋中区の伏見駅から徒歩2分の「エデンデンタルオフィス」では、米国補綴専門医の資格を持つ院長が、10年、20年先を見据えた精密な治療を提供します。歯科医院特有の緊張感を和らげるため、家族のように寄り添う丁寧な対話を重視。患者様の背景や「どうなりたいか」という想いを深く汲み取り、できる限りの最高の治療クオリティーを常に心掛けております。

経歴

  • 愛知学院大学歯学部歯学科卒業
  • 大手歯科医療法人勤務
  • インディアナ大学歯学部補綴科卒業

資格

  • 米国補綴専門医

所属学会

  • 日本補綴歯科学会
  • ACP american academy of prosthodontics member
  • ITI international team
    for implantology 会員
  • AO academy of
    osseointegration 会員

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