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接着(セメント)の種類と外れやすさ
接着材は「くっつける糊」ではありません
「もっと強い接着剤で付けてもらえませんか」
「もっと強い接着剤で付けてもらえませんか」。何度も取れている方から、よく伺う言葉です。お気持ちはよく分かります。ただ、接着材を変えるだけで解決することは、思われているほど多くありません。この記事では、歯科用セメントにどんな種類があって何が違うのか、そしてどういうときに種類を変える意味があるのかをご説明します。
まず、役割の話からさせてください。
被せ物は、接着材だけでくっついているわけではありません。削った歯の側面を抱えることで留まっています。接着材は、その抱えたところにできるわずかな隙間を埋めて、動かないようにする役目です。
身近なもので言い換えてみます。円錐形の栓を、同じ形の穴に差し込んだ状態を想像してください。栓が抜けないのは、側面がぴったり接しているからです。糊は、その接している面のわずかな段差を埋めているだけです。
ですから、抱える面が短かったり、上に向かって広がりすぎていたりすると、どんな接着材を使っても外れます。逆に、抱える面が十分にあれば、接着材の種類による差はそれほど大きくなりません。
ここを先にお伝えしておきたいのは、「強い接着材にすれば大丈夫」という期待をそのままにしておくと、原因が別のところにあった場合に、また同じことが起きるからです。
もうひとつ、言葉の整理をしておきます。診療室では「セメント」「接着材」「合着材」といった言葉が混ざって使われます。おおまかに言えば、歯と化学的に結びつくものを接着、隙間を埋めて機械的に留めるものを合着と呼び分けます。ただ、患者さんにとっては同じ「付けるもの」ですので、この記事ではまとめて接着材と呼びます。
とはいえ、種類による差がないわけではありません。1,000本以上の被せ物を長く追いかけた調査でも、使った材料によって外れた割合に違いが出ていました。ただ、群ごとの本数に大きな偏りがあるため、この数字だけで優劣を決めることはできません。
取れる原因そのものについては、別の記事にまとめています(→ 詰め物がすぐ取れる7つの原因)。この記事では、材料そのものの話に絞ります。
もうひとつ、患者さんが混乱しやすい点を整理しておきます。「仮の接着材」と「本番の接着材」があることです。
治療の途中で仮歯を入れるときや、しばらく様子を見たいときには、あとで外しやすい材料を使います。これは、外すことを前提にした材料です。ですから、そのままでは長くもちません。
「取れやすいですよ」と言われた記憶がある方は、仮の状態だった可能性があります。本番の接着に進んでいるかどうかは、通院の経過で分かりますので、気になる場合はお尋ねください。
種類ごとに、何が違うのか

歯科用セメントには4つの系統があります
歯科用セメントには、大きく4つの系統があります。
古くからある粉と液を混ぜるタイプ
どんな性質か:歯とは化学的にくっつかない。隙間を埋めて機械的に留める
向いている場面:抱える面が十分にある被せ物
気をつけたいこと:唾液に少しずつ溶ける。長い年月で薄くなる
フッ素を出すタイプ
どんな性質か:歯と弱く結びつく。フッ素を放出する
向いている場面:むし歯になりやすい方。歯ぐきに近い縁がある場合
気をつけたいこと:強度は高くない。水分に弱い時期がある
それを樹脂で強化したタイプ
どんな性質か:フッ素を出しつつ、強度と溶けにくさを高めた
向いている場面:日常的にもっとも使いやすい範囲が広い
気をつけたいこと:膨らむ性質があり、薄い装置では注意が要る
樹脂で接着するタイプ
どんな性質か:歯と装置の両方に化学的に接着する
向いている場面:抱える面が足りない場合。セラミックの装置
気をつけたいこと:唾液や血液が入ると力が落ちる。手順が多い
上から3つは、性質が少しずつ重なっています。歴史的には、古くからあるタイプの弱点を補う形で、フッ素を出すタイプ、それを樹脂で強化したタイプが生まれてきました。溶けにくさと、歯との結びつきを少しずつ足していった、という流れです。
いちばん下の樹脂で接着するタイプは、成り立ちが違います。歯の表面に細かい処理をしたうえで、装置の内側にも処理をして、両方に化学的に結びつけます。抱える面が足りない場合でも留められるのは、この仕組みのおかげです。
この表でお伝えしたいのは、いちばん下が万能ではないということです。
樹脂で接着するタイプは、確かにくっつく力が強く、抱える面が足りない場合に助けになります。ただし、そのぶん手順が多く、唾液や血液が触れると力が落ちます。研究をまとめた報告でも、唾液や血液が混じると歯への接着の強さが下がることが示されています。
つまり、この材料の力を引き出すには、治療する歯を唾液から隔離した状態で作業する必要があります。逆に言えば、隔離せずに使えば、強いはずの材料が本来の力を出せません。
ここが、材料の話が単純にならない理由です。材料の性能は、使う条件とセットです。
もうひとつ、溶けやすさの違いも知っておいていただく意味があります。古くからあるタイプは、唾液に少しずつ溶けます。数年かけて層が薄くなり、やがて隙間ができます。そこから細菌が入れば、下でむし歯が進みます。何年か使ってから取れた場合、この経路をたどっていることがあります。
支えになる歯がどれだけ残っているかという話は、別に整理しています(→ フェルールとは|歯を残せるかの分かれ目)。
もうひとつ、固まるまでの時間についても知っておいていただくと、治療中の指示が分かりやすくなります。材料によって、固まりきるまでの時間が違います。その場で硬くなるものもあれば、数十分から数時間かけて安定するものもあります。
装置を入れた日に「今日は硬いものを避けてください」とお伝えするのは、この理由からです。見た目には固まっていても、内部はまだ強さが出ていないことがあります。とくに、水分に弱い時期がある材料では、この数時間の扱いが結果を左右します。
逆に言えば、この時間を守っていただければ、材料は本来の力を出します。ご自宅でできる工夫としては、いちばん効き目のはっきりした部分です。
選び分けの考え方と、種類を変える意味があるとき
どれを使うかは、3つの条件で決まります
どれを使うかは、3つの条件で決まります。
ひとつ目は、抱える面がどれだけあるか。十分にあれば、溶けにくく扱いやすいタイプで足ります。足りなければ、接着の力に頼ることになります。
ふたつ目は、装置が何でできているか。セラミックの装置は、内側の処理をしたうえで樹脂で接着すると、力が出ます。金属の装置とは、相性の良い材料が違います。
三つ目は、その場を乾いた状態に保てるか。歯ぐきに近い位置に縁があると、唾液や血液が入りやすくなります。隔離が難しい場所では、水分に強い材料を選ぶほうが結果が安定します。
そして、種類を変える意味があるのは、取れた原因が接着材にありそうなときだけです。
取れた装置の内側を見ると、ある程度分かります。接着材だけが残っていれば、接着の層ではがれたということです。この場合、種類を変えることに意味があります。
一方、内側に歯の色をしたものがくっついていれば、歯の側が壊れています。内側が黒ずんでいれば、下でむし歯が進んでいました。どちらの場合も、接着材を変えても解決しません。
もうひとつ、むし歯になりやすい方についても触れておきます。フッ素を出すタイプの接着材は、縁のあたりに少しずつフッ素を届けます。これで下のむし歯を防げると言い切ることはできませんが、条件のひとつとして考える価値はあります。むし歯を繰り返している方や、だ液が少ない方では、この点を判断に入れます。
逆に、装置が薄い場合には注意が要ります。樹脂で強化したタイプは、水分を吸ってわずかに膨らむ性質があります。薄い装置では、この膨らみが割れの原因になることがあります。ですから、装置の厚みと材料の組み合わせも見ています。
受診の前に、次のことを整理していただけると診断が早く進みます。分かる範囲で構いません。
- 取れたものは手元にありますか。内側に何かくっついていますか
- 入れてから、どのくらいで取れましたか
- その歯は、これまでに何度取れていますか
- 装置は金属ですか、白いものですか
- むし歯になりやすいと言われたことがありますか
2番目には理由があります。入れて数か月で取れたなら、接着のときの条件か、抱える面の問題です。何年か使ってから取れたなら、接着材が少しずつ溶けたか、下でむし歯が進んだ可能性が高くなります。時期によって、疑うところが変わります。
同じ歯が何度も取れている場合は、材料より先に見るべきものがあります(→ 同じ歯ばかり取れるのはなぜ?)。
もうひとつ、装置を入れる日の流れもお伝えしておきます。まず、仮の状態で装置を載せ、当たり方と見た目を確かめていただきます。ここで気になる点があれば、接着する前に調整します。いったん接着すると、外すには削る必要が出てくるからです。
ご納得いただいてから、歯の面と装置の内側を清掃し、乾いた状態にして接着します。余った材料を取り除き、糸ようじが通ることを確かめて終わりです。この一連の工程に、それなりの時間がかかります。
名古屋の診療室で、どう選んでいるか
米国の補綴教育で学んだ、接着の考え方
私は米国Indiana大学大学院で補綴学を3年間学び、MSD(補綴学の修士)とCertificate in Prosthodonticsを取得しました。補綴というのは、被せ物や入れ歯で歯の形と働きを回復させる分野です。
そこで教わったことで、いまも変えていない考え方があります。接着材で形の不足を補おうとしないということです。
抱える面が足りない歯に、強い接着材を使えば、その場は留まります。ただ、力がかかり続ければ、いずれ同じところではがれます。そして、はがれるときに歯の側を巻き込むことがあります。接着が強いほど、壊れ方が歯の側に寄る、ということです。
ですから当院では、まず形を確かめます。抱える面が足りないなら、覆う範囲を見直すか、支えを作り出す処置を検討します。そのうえで、残った隙間を埋めるために材料を選びます。順番が逆になると、無理のある設計になります。
私が確認している順番は、次の4つです。
- 形:抱える面の高さと広がり具合が、支えとして成り立っているか
- 装置の材料:金属か、セラミックか。内側にどんな処理ができるか
- 隔離できるか:その場を乾いた状態に保てるか。難しければ、水分に強い材料に寄せます
- 前回の原因:接着材ではがれていたなら種類を変える。そうでなければ、材料以外を変える
接着の作業そのものについても、ひとこと添えます。装置を入れる前に、内側と歯の面をどう処理するかで、結果が変わります。セラミックの装置では、内側に細かい処理をしてから、橋渡しをする薬剤を塗り、そのうえで接着します。工程がひとつ抜けると、くっつく力が落ちます。
この工程は外から見えません。ですから、費用の差が何の差なのかが伝わりにくいところでもあります。当院では、何をしているのかを治療の前にご説明するようにしています。
そして、接着したあとの確認も欠かしません。余った材料が歯ぐきの際に残っていると、そこに汚れがたまり、歯ぐきの炎症が続きます。装置そのものは合っていても、この取り残しが原因で不具合が出ることがあります。ですから、接着のあとに縁を器具でなぞり、糸ようじを通して確かめます。
患者さんの側でも気づける点があります。付けてもらったあと、その歯だけ糸ようじが引っかかる、歯ぐきがむずむずする、といった感覚があれば、遠慮なくお伝えください。早い段階なら、簡単に取り除けます。
技工の工程まで自分の手で行ってきたことも、この判断に効いています。設計から製作まで一人で仕上げた入れ歯は100床近くになりました。装置の内側がどう仕上がっているか、接着材がどこに流れるかを、作る側から知っています。だから、取れた装置を見たときに、材料の問題なのか、それ以外なのかを切り分けられます。
噛み合わせが取れる原因になっている場合の考え方は、別にまとめています(→ 噛み合わせが原因で取れるメカニズム)。取れた装置を戻せるかどうかは(→ 取れた被せ物は再利用(再装着)できる?)をご覧ください。
最後に、費用との関係にも触れておきます。接着の工程は、外から見えません。ですから、そこに手間をかけているかどうかは、患者さんの側からは判断しようがありません。
当院では、どの材料を使い、どんな手順で接着するのかを、治療の前にご説明しています。金額の差が何の差なのかが分からないまま選ぶのは、ご本人にとって不安だと思うからです。聞いていただければ、そのつどお答えします。
そして、材料を選ぶのは最後です。形を確かめ、装置の材料を決め、隔離できるかを見て、そのうえで接着材を選びます。順番を守ることのほうが、どの材料を選ぶかより結果に効きます。
まとめ|名古屋で接着の種類が気になる方へ + よくあるご質問

まとめ|系統ごとに性質が違います
歯科用セメントには4つの系統があり、性質が違います。歯と化学的にくっつくもの、フッ素を出すもの、溶けにくいもの、接着の力が強いもの。それぞれ向いている場面が違います。
ただし、接着材は「くっつける糊」ではありません。被せ物は削った歯の側面を抱えることで留まっていて、接着材はその隙間を埋める役目です。ですから、抱える面が足りなければ、どんな材料を使っても外れます。
種類を変える意味があるのは、取れた原因が接着材にありそうなときだけです。取れた装置の内側を見れば、ある程度は見分けられます。
名古屋・伏見の当院では無料相談を行っており、セカンドオピニオン外来は5,500円(税込)です。検査と診断のうえ、費用・期間・主なリスクをまとめてご説明します。Zoomでのご相談も承っています。完全予約制・完全個室で、地下鉄「伏見駅」7番出口から徒歩2分です。
被せ物や詰め物が何度も取れることについて全体を見渡したい方は、こちらの記事から入っていただくと、ご自身の状況を位置づけやすくなります(→ 被せ物・詰め物が何度も取れる原因と治し方【完全ガイド】)。
あわせて読みたい
- 神経を取った歯の被せ物を選ぶ方へ(→ 根管治療後の被せ物の選び方)
- 削る量が気になって踏み出せない方へ(→ セラミックのやり直しで歯はどれだけ削る?)
- やり直したあとに繰り返さないために(→ やり直したあと、同じことを繰り返さないために)
ご自身で整理していただけるのは、取れた装置が手元にあるか、入れてからどのくらいで取れたか、これまでに何度取れているか、この3つです。とくに2つ目は、疑うところを絞る手がかりになります。
よくあるご質問
Q1. いちばん強い接着材で付けてもらえますか。
いちばん強い材料が、その歯にいちばん合うとは限りません。接着の力が強い材料は、そのぶん手順が多く、唾液や血液が触れると力が落ちます。隔離が難しい場所で無理に使うと、本来の力が出ないまま入ることになります。また、接着が強いほど、はがれるときに歯の側を巻き込むことがあります。その歯の形と場所に合わせて選ぶのが、結果としていちばん長くもちます。
Q2. 前は取れなかったのに、最近よく取れます。材料が変わったのでしょうか。
材料が変わっていなくても起こります。古くからあるタイプの接着材は、唾液に少しずつ溶けます。数年かけて層が薄くなり、隙間ができます。そこから細菌が入って、下でむし歯が進むこともあります。何年か使ってから取れるようになった場合は、この経路を疑います。取れた装置の内側を見ると、手がかりが残っています。
Q3. 保険と自費で、接着材は違いますか。
制度として使える材料の範囲が定められています。これは制度の設計の話であって、個々の歯科医院の姿勢の問題ではありません。ただ、装置の材料と接着材は組み合わせで働きますので、セラミックの装置を選べる場合は、それに合わせた接着の方法も選べる、ということになります。何をどう組み合わせるかは、治療の前にご説明します。
Q4. 接着材が体に悪いということはありませんか。
歯科用の材料は、口の中で使うことを前提に作られています。ただ、まれに材料に反応する方がいらっしゃいます。金属を含むものでかぶれた経験がある方や、これまでの歯科治療で違和感が出た経験がある方は、その旨をお伝えください。使う材料を変えて対応できることがあります。心当たりがなければ、過度に心配される必要はありません。
※お口の状態には個人差があり、適した治療や結果は人によって異なります。検査・診断のうえ、費用・期間・主なリスクをまとめてご説明します。装置を外した際に、むし歯や歯の割れが見つかり、治療計画が変更になる可能性があります。自由診療の場合は保険適用外となります。
関連する内容は以下のページでご説明しています。
監修者情報

EDEN DENTAL OFFICE (エデン デンタル オフィス)
院長 村井亮介
名古屋中区の伏見駅から徒歩2分の「エデンデンタルオフィス」では、米国補綴専門医の資格を持つ院長が、10年、20年先を見据えた精密な治療を提供します。歯科医院特有の緊張感を和らげるため、家族のように寄り添う丁寧な対話を重視。患者様の背景や「どうなりたいか」という想いを深く汲み取り、できる限りの最高の治療クオリティーを常に心掛けております。
経歴
- 愛知学院大学歯学部歯学科卒業
- 大手歯科医療法人勤務
- インディアナ大学歯学部補綴科卒業
資格
- 米国補綴専門医
所属学会
- 日本補綴歯科学会
- ACP american academy of prosthodontics member
- ITI international team
for implantology 会員 - AO academy of
osseointegration 会員
CONSULTATION 無料相談・セカンドオピニオン
インプラントをはじめ、審美補綴や義歯などの外科的治療に関するご相談を承っております。その他の治療内容についてもお気軽にお問い合わせ下さい。



