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差し歯のやり直しは何回までできるのか
「あと何回やり直せるか」を決めているのは、回数ではありません
「この差し歯、あと何回くらい作り替えられますか」。診療室でよくいただくご質問です。先にお答えすると、回数の上限を示した研究はありません。3回まで、5回まで、といった線引きは、私が確認できた範囲の文献には見当たりませんでした。ただし、いくらでもできるという意味ではありません。何回できるかを決めているのは回数そのものではなく、その歯にどれだけ歯が残っているか、そして神経が生きているかどうかです。この記事では、その理由と、ご自身の歯がいまどのあたりにいるのかを見ていただける目安を、順にご説明します。
まず、やり直しのときに何が起きているかを整理させてください。
被せ物を作り替えるときは、古い被せ物を外し、その下の歯の形を整え直してから、新しいものを作ります。このとき、歯はほんの少しずつですが削られます。外す作業でも、形を整える作業でも、歯は減る方向にしか動きません。
そして、削られた歯は元に戻りません。歯の表面のエナメル質は、細胞も血管も持たない組織で、体の中で作り直されることがないからです。ごく初期の脱灰なら唾液の力で固くなり直すことはありますが、削って失った形が戻ることはありません。
ここに、やり直しの本質があります。被せ物は何度でも替えられます。けれども、その下の歯は替えられません。この非対称が、「あと何回」の答えを決めています。
どれくらい削られているのか、数字でも見ておきましょう。前歯を全部おおう被せ物では、削る前の歯の重さのうち63〜72%が失われるという計測があります。材料によっても差があり、削る量の少ないタイプでも約42%、多いタイプでは約59%です。一方、歯の表面に薄く貼るタイプでは3〜30%にとどまります。
やり直しのときは、ここからさらに減ります。すでに一度形を整えた歯を出発点にして測った研究では、被せ物にすると残っている歯の25〜38%が追加で失われました。部分的におおうタイプなら8%未満です。
「そんなに削っているとは思わなかった」とおっしゃる方は少なくありません。被せ物を入れると、外から見える形は元どおりか、それ以上にきれいになります。削られた部分は被せ物の内側に隠れるので、目では確かめられません。ですから、数字でお見せするようにしています。
もうひとつ、実感していただきやすい見方があります。歯を、まわりを削って細くしていく鉛筆だと思ってみてください。削るたびに芯は短くなりますが、外側にキャップをかぶせれば、見た目の長さは元に戻ります。使い続けられるかどうかを決めているのは、キャップではなく、中に残っている芯の太さと長さです。
もうひとつ、神経の話をさせてください。被せ物を入れたあと、歯の神経が死んでしまう割合は約5%、根の先に影ができる割合は約3.6%と報告されています。前歯であること、仮歯の期間が2週間を超えることなどで、この割合は上がります。やり直しのたびに、この負担を背負い直すことになります。
神経を取ると、歯は割れやすくなります。88,409本の被せ物を10年間追った調査では、5.78%が根の治療に進み、3.37%が抜歯に至りました。修復物は、失敗するたびにより大きな修復物に置き換えられていく。この連鎖が、最終的に歯の寿命に関わってくる、という指摘は40年近く前からありました。
ですから、私は「あと何回」というご質問に、回数ではお答えしません。かわりに、いま何が残っているかをお見せして、その先の見通しを一緒に考えるようにしています。交換の時期そのものを迷っている方は(→ セラミック交換を検討すべきサイン)を先にご覧ください。動かなくてよい段階なら、削らずに済みます。
歯の状態別に、あと何回できるかの目安

ここからは、ご自身の歯がどのあたりにいるのかを見ていただけるように、状態別に整理します。あくまで目安で、実際は診査のうえで判断します。
判断のカギになるのが、被せ物を支えるための「帯」です。被せ物は、歯の頭の部分をすっぽりおおって使いますが、このとき歯ぐきの近くに、輪っかのように歯が残っている必要があります。この輪っかをフェルールと呼びます。高さが1.5〜2mm、厚みが1mm以上あると、割れにくくなることが分かっています。
この帯がどれだけ残っているかで、歯の強さは大きく変わります。上の前歯を使った試験では、壁がすべて残っている状態で607ニュートンの力に耐えたのに対し、内側だけ残っている状態では782、外側だけでは358、隣の面だけでは375、壁がまったくない状態では172まで落ちました。壁がない状態は、すべて残っている状態の3割以下ということです。
神経が生きていて、歯の壁がぐるりと残っている
やり直しの見通し:もっとも余裕がある状態。今後も複数回の組み直しに耐えられる可能性が高い
気をつけたいこと:今回の設計で、削る量を抑えられるかを検討する価値が大きい
神経が生きていて、壁が1〜2面欠けている
やり直しの見通し:まだ選択肢が残っている。部分的におおう方法を検討できる
気をつけたいこと:全部おおう被せ物にすると、一気に歯が減る
神経を取っていて、帯が1.5〜2mm確保できている
やり直しの見通し:被せ物で支える設計が成り立つ
気をつけたいこと:次に削ると帯が足りなくなる可能性がある。今回を最後にする設計が要る
神経を取っていて、帯が足りない
やり直しの見通し:被せ物で支えること自体が難しくなってくる
気をつけたいこと:歯ぐきの位置を整える処置や、別の支え方の検討に入る
根が縦に割れている
やり直しの見通し:残す方向での組み直しが難しい
気をつけたいこと:抜歯を含めた計画に切り替えて考える
この表を見ていただくと分かるとおり、「あと何回」を決めているのは、これまでに何回やり直したかではありません。いま帯が何ミリ残っているかです。1回目でも帯を失えばそこで難しくなりますし、3回目でも帯が残っていれば設計は成り立ちます。
ご自身でおおよその見当をつける方法もあります。鏡で、その歯と歯ぐきの境目を見てください。被せ物の縁のすぐ下に、ご自身の歯の色が帯のように見えていれば、支えになる部分が残っている可能性があります。歯ぐきの際まで被せ物が来ていて、ご自身の歯がまったく見えない場合は、帯が歯ぐきの中に隠れているか、もともと少ない可能性があります。ただし、これは目安にすぎません。確かめるにはレントゲンが要ります。
もう一点、噛み合う相手の歯も見ておく必要があります。同じ帯の量でも、強い力が集中する場所にある歯と、そうでない歯とでは、次に持つ年数が変わるためです。歯ぎしりや食いしばりを指摘されたことがある方は、その情報も治療計画に関わってきます。
もうひとつ大切なのが、全部おおうか、部分的におおうかという選択です。長期の成績を比べた研究では、16.9年の時点で全部おおうタイプが96.75%、部分的におおうタイプが95.27%で、差は認められませんでした。5,811本の修復物を対象にした調査でも、部分的におおうタイプの5年生存率は92〜95%です。
つまり、残っている歯が十分にあるなら、部分的におおう方法を選んでも成績は落ちません。そして削る量は数分の1で済みます。やり直しの第一選択が全部おおう被せ物ではない、という考え方の根拠がここにあります。削る量そのものについては(→ セラミックのやり直しで歯はどれだけ削る?)で詳しく扱っています。
本数によって費用がどう変わるかは(→ セラミックやり直しの費用|単価と本数の考え方)に、支えになる帯の話をもう少し掘り下げたものは(→ フェルールとは|歯を残せるかの分かれ目)にまとめています。
正直にお伝えしておきます|言い切れないことと、数字の限界
ここまで数字を並べてきましたが、限界もあわせてお伝えしておきます。
1つ目。「やり直しのたびに何ミリ余計に削れるか」を測った研究は、私が探した範囲では見つかりませんでした。古い被せ物を外す方法ごとに、失われる歯の量を比べた研究も同様です。ですから「この方法なら何ミリ少なく済みます」とお伝えできる根拠はありません。分かっているのは、外す作業そのものが、戻せない削りを伴うということだけです。
2つ目。壁の強さを測った試験の多くは、抜いた歯を使った実験室での結果です。実際のお口の中では、噛む力の向きも、歯ぐきの状態も、その方ごとに違います。数字はあくまで傾向を示すもので、そのまま当てはまるわけではありません。
3つ目。修復のくり返しが歯の寿命に関わるという議論は、接着の技術が普及する前のデータが中心です。いまの材料と方法では、進み方が違う可能性があります。
それでも、これらの数字を挙げるのには理由があります。「回数の上限はありません」とだけお伝えすると、いくらでもやり直せるように聞こえてしまうからです。上限は回数ではなく、残っている歯の量として存在します。そこだけは、はっきりお伝えしたいと思っています。
やり直す理由も、回数の考え方に関わってきます。むし歯が中で進んでいて外さざるを得ない場合と、見た目が気に入らないので替えたい場合とでは、天秤にかけるものが違うためです。前者は放置すると歯が減り続けるので、外す判断が先に立ちます。後者は、削る量と得られる満足を並べて考える余地があります。同じ「やり直し」でも、急ぐべきものとそうでないものがある、ということです。
私は、見た目が理由のご相談では、いったん持ち帰っていただくことがあります。作り直せば良くなる部分と、作り直しても変わらない部分を先にお伝えし、そのうえで決めていただくためです。歯は減る方向にしか動きませんから、迷っている段階で削り始めないほうが、選択肢は多く残ります。
受診の前に、次のことを思い出しておいていただけると、診断が早く進みます。分かる範囲で構いません。
- その歯は、これまでに何回やり直しましたか
- 神経は残っていますか。土台が入っていると聞いていますか
- 今回やり直したい理由は、見た目ですか、症状ですか、その両方ですか
- 前回のやり直しから、どれくらい経ちましたか
- 歯ぎしりや食いしばりを指摘されたことはありますか
色が合わないことが理由なら、作り直さずに済む余地があるかもしれません(→ セラミックの色が合わないときのやり直し)。白さが浮いて見える場合は(→ 白すぎる・不自然なセラミックの直し方)、欠けや割れが起きている場合は(→ セラミックが欠けた・割れたときの対処)、歯ぐきとの境目の色が気になる場合は(→ 差し歯の歯ぐきの黒ずみ|原因と治し方)をご覧ください。いずれも、作り直す前に止められる段階があります。
私が「あと何回」ではなく「あと何ミリ」で見ている理由
私は米国Indiana大学大学院で補綴学を3年間学び、MSD(補綴学の修士)とCertificate in Prosthodonticsを取得しました。補綴というのは、被せ物や入れ歯で歯の形と働きを回復させる分野です。
そこで繰り返し問われたのは、「なぜ全部をおおう必要があるのか」でした。全部おおうことを標準にして、そこから減らせるかを考えるのではありません。必要な範囲だけをおおうことを出発点にして、そこから広げる理由があるかを一つずつ確かめていく。順番が逆なのです。この違いが、最終的に残る歯の量を大きく変えます。
実際の診療がどれだけ規格から外れているかを示した調査もあります。歯科技工所に提出された奥歯の形成データ392件を調べたところ、必要な厚みが確保できていなかったものが、小臼歯で39%、第一大臼歯で77%、第二大臼歯で91%ありました。削りすぎも、削り足りないことも、日常的に起きているということです。
ですから私は、目分量で削りません。先に完成形をワックスで作り、そこからシリコンの型を起こして、口の中に戻します。その型の上から、必要な厚みの分だけを削る。完成形が決まっていれば、削る量は完成形から逆算されます。
治療の期間についても触れておきます。今回を最後にする設計を組むと、初回の治療より時間がかかることがあります。原因を調べる工程、完成形を試していただく工程、歯ぐきが落ち着くのを待つ工程が入るためです。急いで作れば、その分だけ確かめずに進むことになります。何回で終わるかは歯の状態によって変わりますので、初回のご相談でおおよその見通しをお伝えしています。
この方法を選べるのは、技工の工程まで自分の手で行ってきたからだと思っています。設計から製作まで一人で仕上げた入れ歯は100床近くになりました。どこまで薄くできて、どこからは割れるのかを、作る側の感覚として持っていると、削る量の下限を安全なところまで攻められます。
接着の話も、削る量と直結します。歯の表面に薄く貼るタイプでは、エナメル質だけに接着できた場合の成功率が99.3%と報告されています。ところが、内側の象牙質が3割を超えて露出すると、割れる割合が上がります。象牙質への接着は、エナメル質への接着より7割以上弱いためです。やり直すたびにエナメル質は減りますから、回数を重ねるほど接着に不利な条件へ入っていきます。「あと何ミリ」で見る理由の一つが、ここにもあります。
帰国後は、被せ物の設計や噛み合わせについて、歯科医師向けの講演の機会をいただいてきました。やり直しの症例を扱うと、決まって論点になるのが、どこまでを残す前提で外すかという線引きです。同じレントゲンを見ても、どんな設計を思い描くかで結論が変わります。正解が一つに決まらないからこそ、私は判断の材料を先に並べ、患者さんにも同じ材料を見ていただいたうえで決めるようにしています。
そして、いちばんお伝えしたいのはここです。やり直しの相談で私が時間をかけるのは、目の前の1本をどう作るかと同じくらい、今回を最後にするための設計です。一度で終えられれば、失うのは一度分で済みます。反対に、原因が分からないまま作り直すと、同じ理由で同じ場所がまた壊れます。色が合わないのか、力がかかりすぎているのか、縁の位置に無理があるのか。原因の層を先に切り分けてから設計に入るのは、そのためです。
前歯を複数本まとめて組み直す場合は、1本ずつではなく、笑ったときの見え方から逆算して設計する進め方もあります(→ DSDで前歯のやり直しを設計する)。形そのものが気になっている方は(→ 前歯の差し歯の「形」が気に入らないとき)をご覧ください。
まとめ|差し歯のやり直しは何回までできるのか + よくあるご質問

差し歯のやり直しに、回数の上限を示した研究はありません。上限は回数ではなく、残っている歯の量として存在します。被せ物を支える帯が高さ1.5〜2mm、厚み1mm以上あるかどうかが、次の設計が成り立つかを分けます。1回目でも帯を失えばそこで難しくなり、3回目でも帯が残っていれば組み直せます。
そして、残っている歯が十分にあるなら、部分的におおう方法でも長期の成績は落ちません。削る量は数分の1で済みます。やり直しを考えるときは、「全部おおう」を出発点にせず、必要な範囲だけで済むかを先に検討するほうが、次の回数を残せます。
ご自身で整理していただけるのは、これまでのやり直しの回数、神経が残っているかどうか、今回の理由が見た目か症状か、この3つです。名古屋・伏見の当院では無料相談を行っており、セカンドオピニオン外来は5,500円(税込)です。検査と診断のうえ、いま何ミリ残っているかを画像でお見せしながら、費用・期間・主なリスクをご説明します。Zoomでのご相談も承っています。
セラミックや差し歯のやり直し全体を先に見渡したい方は、ハブとなる記事から入っていただくと、ご自身の状況を位置づけやすくなります(→ セラミック・差し歯のやり直し【完全ガイド】)。
あわせて読みたい
- 他院での説明に納得しきれないときの相談の切り出し方(→ 差し歯やり直しのセカンドオピニオン)
- 薄く貼るタイプの治療で削る量が気になる方へ(→ ラミネートベニアのセカンドオピニオン)
- 前歯が欠けて、残せるかどうかを確かめたい方へ(→ 前歯が欠けたセラミック治療)
- 回数以外の不安もまとめて相談したい方へ(→ セラミックトラブルのセカンドオピニオン)
- 前歯を1本だけ作り替えるときの難しさを知りたい方へ(→ 前歯を1本だけやり直すのが難しい理由)
よくあるご質問
Q1. これで3回目のやり直しです。もう限界でしょうか。
回数だけでは判断できません。大切なのは、被せ物を支える帯が高さ1.5〜2mm、厚み1mm以上残っているかどうかです。3回目でも帯が残っていれば設計は成り立ちますし、1回目でも帯を失っていれば難しくなります。いま何ミリ残っているかは、CTと口腔内スキャナーで記録したうえで、画像をお見せしながらご説明します。
Q2. 古い被せ物を外すとき、歯が余計に削れてしまいませんか。
その心配はもっともです。ただ、外し方ごとに失われる歯の量を比べた研究は、私が探した範囲では見つかりませんでした。ですから「この方法なら少なく済みます」とお伝えできる根拠はありません。当院では、外す前に現状を記録し、どこまで残す前提で外すかを決めてから着手します。外した内側にむし歯や割れが見つかって計画が変わる可能性についても、着手の前にお伝えしています。
Q3. 神経を取ってしまうと、やり直せる回数は減りますか。
減る方向に働きます。神経を取った歯は割れやすくなり、支えるための帯も確保しにくくなるためです。被せ物を入れたあとに神経が死んでしまう割合は約5%と報告されており、やり直しのたびにこの負担がかかります。ですから当院では、神経を残せる可能性があるうちは、そこを守る設計を優先します。
Q4. 部分的におおう方法にすると、長持ちしないのではありませんか。
そうとは限りません。16.9年を追った研究では、全部おおうタイプが96.75%、部分的におおうタイプが95.27%で、差は認められませんでした。ただしこれは、残っている歯が十分にある場合の話です。壁が大きく失われている歯では、部分的におおう設計が成り立ちません。どちらを選べるかは、いま残っている歯の形と量によって決まります。
名古屋で他院で受けた治療のやり直しを広くお考えの方は、こちらもあわせてご覧ください(→ 名古屋で他院治療のやり直し・再治療をお考えの方へ)。
※お口の状態には個人差があり、適した治療や結果は人によって異なります。検査・診断のうえ、費用・期間・主なリスクをまとめてご説明します。被せ物を外した際に、むし歯や歯の割れが見つかり、治療計画が変更になる可能性があります。自由診療の場合は保険適用外となります。
監修者情報

EDEN DENTAL OFFICE (エデン デンタル オフィス)
院長 村井亮介
名古屋中区の伏見駅から徒歩2分の「エデンデンタルオフィス」では、米国補綴専門医の資格を持つ院長が、10年、20年先を見据えた精密な治療を提供します。歯科医院特有の緊張感を和らげるため、家族のように寄り添う丁寧な対話を重視。患者様の背景や「どうなりたいか」という想いを深く汲み取り、できる限りの最高の治療クオリティーを常に心掛けております。
経歴
- 愛知学院大学歯学部歯学科卒業
- 大手歯科医療法人勤務
- インディアナ大学歯学部補綴科卒業
資格
- 米国補綴専門医
所属学会
- 日本補綴歯科学会
- ACP american academy of prosthodontics member
- ITI international team
for implantology 会員 - AO academy of
osseointegration 会員
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