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DSDで前歯のやり直しを設計する

DSDとは、歯からではなく顔から設計する考え方です

前歯を複数本まとめてやり直すとき、1本ずつ色と形を合わせていくと、全体がまとまらないことがあります。1本単位では正しくても、笑ったときの見え方は別の要素で決まるからです。

DSD(デジタル・スマイル・デザイン)で前歯のやり直しを設計するというのは、歯から考えるのをやめて、顔の基準線と笑顔の見え方から逆算する順番に切り替えることを指します。特定の材料や術式の名前ではなく、決める順番を揃えるための手順です。

写真と動画に、基準線を重ねます

やり方は大きく2つあります。正面のお顔、笑ったときのお顔、口元という写真と動画に、デジタルの定規と基準線を重ねる方法。もう一つは、お顔とお口の中のスキャンを重ね合わせ、画面の中に仮想の患者さんを作ってから設計する方法です。

正直に申し上げておきます

DSDを使ったほうが満足度が高かった、工程のミスが減ったという報告は出てきています。ただし研究の数はまだ少なく、多くが小規模で短期のものです。ですから「DSDを使えば結果が良くなる」と言い切れる段階ではなく、「見通しが立てやすくなる可能性がある」という程度の受け止め方が妥当です。私自身も、万能の道具としてではなく、判断の順番を揃えるための枠組みとして使っています。

それでも順番を変える価値はあります。1本の色が合わないという相談と、前歯6本の並びが気に入らないという相談は、同じ「やり直し」でも扱う情報の量が違うからです。1本の色みが主題であれば、確認する場所は限られます(→ セラミックの色が合わないときのやり直し)。複数本になった時点で、顔から逆算する工程が要ります。

何を基準に決めるのか|「合わせる正解」ではなく「測るための線」

「顔から逆算する」と言うとき、実際には何を見ているのか。よく使う基準を並べます。

先に知っておいていただきたいことがあります。目と目を結んだ線も、顔の真ん中の線も、揺るがない基準ではありません。前歯の先端を結んだ線が目の線と平行になる方は1割ほどしかいませんし、顔の真ん中と前歯の真ん中が一致する方も、3人に2人ほどです。ずれている場合の平均は1mmちょっとと報告されています。

人の顔は、もともと左右対称ではないのです。ですから基準線は「合わせるべき正解」ではなく、「どれだけ離れているかを測るための参照線」として使います。

顔の真ん中と、前歯の真ん中

分かっていること:一致する方は3人に2人ほど。ずれに気づかれにくいのは2〜3mmくらいまでで、歯科医師は2mmほど、一般の方は4mmほどまでは気づきにくいという報告があります

設計での使い方:ずれを消すか、あえて残すかを先に決めます

注意点:研究によって結果の幅が大きく、見せ方によっても変わります

前歯の先端を結んだ線の傾き

分かっていること:4度ほど傾くと、歯科の専門家でなくても気づかれます

設計での使い方:左右の歯の長さを揃える基準にします

注意点:お顔そのものが傾いている場合、歯だけ水平にすると、かえって不自然に見えます

笑ったときに歯ぐきが見える量

分かっていること:2〜3mmを超えて見えると気づかれやすくなります。歯科医師はもう少し小さな差でも気づきます

設計での使い方:歯を長くするのか、歯ぐきの位置を動かすのかの分岐点にします

注意点:静止した写真での評価です。唇の動き方と年齢による変化までは反映されません

いわゆる「黄金比」について

前歯の幅が一定の比率で並ぶという考え方がありますが、実際の歯並びに当てはまる方は2割前後にとどまります。幅と長さの比もおおむね8割前後が目安とされますが、集団によって幅があり、アジア系と欧米系で差があるという報告もあります。ですから当院では、テンプレートを当てはめる方法は取らず、比を手がかりにしながら、ご本人の顔の中で決めています。欧米で作られた比率をそのまま持ち込まない、という点は大切だと考えています。

数値は判断の材料であって、決定そのものではありません。ずれを消すのか、あえて残すのか。私は、試適の段階でご本人に選んでいただくようにしています。

DSDでも解決しにくい条件と、受診前の確認ポイント

DSDは設計の枠組みであって、条件そのものを変える道具ではありません。次のような場合は、歯の形だけを設計し直しても結果がまとまりません。

歯ぐきのラインが左右で揃っていない場合。歯の形をどれだけ整えても、歯ぐきの高さが違えば、長さが違って見えます。歯ぐきと骨のあいだにはおよそ2mmの決まった幅があり、ここを侵す位置に被せ物のふちを置くと、慢性的な炎症や歯ぐきの下がりにつながります。

歯ぐきの位置を外科的に整える場合は、時間の要素も入ります。歯ぐきの戻りは主に手術から3か月以内に起こるため、最終的な形を決めるのは歯ぐきが落ち着いてからになります。前歯のやり直しに数か月かかると申し上げるのは、この待ち時間を含むためです。

デジタルにも誤差があること。お顔のスキャンとお口の中のスキャンを重ね合わせる工程には、必ず誤差が出ます。従来の方法より小さいとはいえ、ゼロにはなりません。工程を重ねるほど誤差が積み上がることも指摘されています。

写真そのものが歪むこと。近い距離から広角のレンズで撮ると、顔の中央が縦に伸びて写ります。歯科で90〜100mmのレンズを使うのはこのためです。撮影条件が違えば、同じ顔でも違う設計が出てきます。静止画は動いている笑顔を捉えきれないため、動画をあわせて見るほうが精度が上がります。

受診の前に、整理していただきたい5点

  • 気になっているのは何本ですか。左右で気になり方が違いますか
  • 「こうしたい」と思える写真はありますか。ご自身の若いころの写真でも構いません
  • 笑ったときに歯ぐきがどれくらい見えるか、気にされていますか
  • 歯ぐきのラインが左右で違うと感じたことはありますか
  • 矯正を受けたことがありますか。歯を抜いた治療でしたか

形そのものが主題で、本数が少ない場合は、DSDまで持ち出さずに整理できることもあります(→ 前歯の差し歯の「形」が気に入らないとき)。歯ぐきとの境目の色が気になっている場合は、設計より先に原因の切り分けが要ります(→ 差し歯の歯ぐきの黒ずみ|原因と治し方)。

当院でのDSDの使い方|試適で決めてから削ります

私は米国Indiana大学大学院で補綴学を3年間専攻し、MSD(補綴学の修士)とCertificate in Prosthodonticsを取得しました。当時から一貫して教わったのは、前歯の設計は歯科医師が決めるものではなく、患者さんと一緒に決めるものだ、ということです。そのために要るのが、削る前に完成形をお口の中で見ていただく工程でした。

画面上の設計を、そのまま作り直しには進めません

設計から樹脂の試適(モックアップ)を作り、削らずに歯の上に載せて、ご本人に鏡でご覧いただきます。ここで初めて、画面上の線が「自分の顔」になります。話していただき、笑っていただき、違和感があれば、削る前に設計を変えられます。

実際に口の中で試したときが、いちばん判断の材料になったという報告があります。写真やシミュレーション画像だけでは、この段階に届きません。逆に言えば、試適の工程を挟まないDSDは、画面上の絵にとどまります。当院では、ここを省かないようにしています。

試適で決めたあとは、その形をシリコンの型に写し、お口の中に戻して、その上から削ります。完成形が決まっているので、削る量は完成形から逆算されます。目分量で削ってから形を考える順番とは、削る量が変わってきます。

入れ歯で学んだことを、前歯に使っています

大学院時代に手がけた入れ歯は100床近くになりました。入れ歯は、顔と唇との関係から人工の歯を並べる装置です。中心をどこに置くか、どこまで見せるか。顔を見ながら決める訓練を積むことになります。前歯のやり直しでDSDを使うとき、私が画面よりも先にお顔を見るのは、この経験によるものです。

なお、薄く貼るタイプの治療は、設計が整っていれば10年単位で機能することが期待できる範囲にあります。材料による差は、はっきりしていません。欠けや割れが起きたときの考え方は(→ セラミックが欠けた・割れたときの対処)に、交換の時期の見分け方は(→ セラミック交換を検討すべきサイン)にまとめています。

まとめ|DSDで前歯のやり直しをお考えの方へ|よくあるご質問

DSDで前歯のやり直しを設計するとは、顔の基準線と笑顔の見え方から逆算して、歯の形を最後に決める順番に切り替えることです。

目の線も顔の真ん中の線も、揺るがない基準ではありません。どれだけ離れているかを測るための参照線として使います。歯ぐきのラインが揃っていなければ、歯だけを作り直しても長さは揃いません。そして削る前に試適で完成形を確認しておけば、判断を後戻りできる段階に留められます。

DSDの効果を示す研究はまだ数が少なく、小規模で短期のものが中心です。それでも、決める順番を揃えること自体に意味があると考えています。名古屋・伏見の当院では無料相談を行っており、セカンドオピニオン外来は5,500円(税込)です。Zoomでのご相談も承っています。

セラミックや差し歯のやり直し全体を先に見渡したい方は、ハブとなる記事から入っていただくと、ご自身の状況を位置づけやすくなります(→ セラミック・差し歯のやり直し【完全ガイド】)。

よくあるご質問

Q1. DSDをすれば、仕上がりが事前に分かるということですか。

画面上のシミュレーションだけでは、そこまでは分かりません。分かるのは、削らずにお口の中で試適を作った段階です。樹脂で作った形を歯の上に載せ、鏡で見て、話して、笑ってご確認いただきます。ここで違和感があれば、削る前に設計を変えられます。試適の工程を挟まないDSDは、画面上の絵にとどまります。

Q2. 前歯を何本まとめて治すかは、どう決めるのでしょうか。

笑ったときに見える範囲と、左右の対称性の取り方で決まります。1本だけを周囲に合わせるのは、色の面でも形の面でも難しい作業です。一方で、本数を増やせば削る歯も増えます。当院では、試適の段階で本数の違う案を並べてお見せし、削る量と見た目のまとまりを比べたうえで決めていただいています。本数と費用の関係は(→ セラミックやり直しの費用|単価と本数の考え方)にまとめています。

Q3. 歯ぐきの手術が要ると言われました。歯だけ作り直すことはできませんか。

できる場合もあります。歯ぐきの高さの差が小さく、被せ物のふちの位置に無理がなければ、歯の形の設計だけでまとめられます。ただし歯ぐきと骨のあいだには一定の幅が必要で、そこを侵す位置にふちを置くと炎症や歯ぐきの下がりにつながります。歯ぐきを動かす場合は、落ち着くまで数か月お待ちいただいてから最終的な形を決めます。

Q4. 芸能人の写真を持っていってもよいですか。

ぜひお持ちください。言葉より正確に伝わります。ただし、その形をそのまま再現するとは限りません。お顔の骨格と唇の動き方が違えば、同じ形でも見え方が変わるからです。当院では、その写真の「何を気に入っているのか」を一緒に言葉にして、ご自身の顔の中で成り立つ形に置き換えていきます。若いころのお写真も、同じくらい有用な資料になります。

あわせて読みたい

※お口の状態には個人差があり、適した治療や結果は人によって異なります。検査・診断のうえ、費用・期間・主なリスクをまとめてご説明します。歯ぐきの外科処置を伴う場合、治癒を待つ期間が必要になります。自由診療の場合は保険適用外となります。

監修者情報

EDEN DENTAL OFFICE (エデン デンタル オフィス)

院長 村井亮介

名古屋中区の伏見駅から徒歩2分の「エデンデンタルオフィス」では、米国補綴専門医の資格を持つ院長が、10年、20年先を見据えた精密な治療を提供します。歯科医院特有の緊張感を和らげるため、家族のように寄り添う丁寧な対話を重視。患者様の背景や「どうなりたいか」という想いを深く汲み取り、できる限りの最高の治療クオリティーを常に心掛けております。

経歴

  • 愛知学院大学歯学部歯学科卒業
  • 大手歯科医療法人勤務
  • インディアナ大学歯学部補綴科卒業

資格

  • 米国補綴専門医

所属学会

  • 日本補綴歯科学会
  • ACP american academy of prosthodontics member
  • ITI international team
    for implantology 会員
  • AO academy of
    osseointegration 会員

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