ブログ
適合精度とは|ミクロンの隙間が寿命を決める
ミクロンという単位で、歯の上に何が起きているのか
被せ物のふちの隙間は、長いあいだ120マイクロメートルまでが目安とされてきました。1マイクロメートルは、1ミリの1000分の1です。
名古屋でのご相談でも、私は数値より先に工程の話をお伝えしています。隙間が生まれる工程を押さえるほうが、やり直しの間隔をのばす近道になるからです。
「合っている」を、三つに分けて考える
適合精度とは、被せ物と歯がどれだけ隙間なく合っているかを表す言葉です。見るところは、大きく三つ。
ひとまとめに「合っている」と言ってしまうと、どこをどう直せばよいのかが見えなくなってしまいます。
辺縁適合(ふちの合い)
どこの隙間?被せ物のふちと、歯の境目にできる隙間
なぜ見るの?患者さんの目に触れるのは、ここだけだからです
気をつけたいのは?ふちの隙間は結果として出た数値。原因は内がわにあるほうが多いのです
内面適合(内がわの合い)
どこの隙間?被せ物の内がわと、削った歯の面とのあいだの空間
なぜ見るの?ここが合っていないと、被せ物は設計どおりの位置まで沈みこめません
気をつけたいのは?沈みこめないぶんだけ、ふちのほうが浮いてしまう
セメント層(すきまを埋める厚み)
どこの隙間?内がわの空間を埋める、セメントの厚み
なぜ見るの?厚みと均一さが、ふちの最後の位置を決めます
気をつけたいのは?厚くて不ぞろいだと、力のかかりかたも片寄ってしまう
やり直しの引き金になるのは、じつは見えない内面とセメント層のほう。そういう歯が少なくありません。
120マイクロメートルという目安に、合意はない
単位はマイクロメートルを使います。目で見て判断できる大きさではありません。
ふちの隙間については、長いあいだ120マイクロメートルまでが許される目安として使われてきました。かなり古い実験にもとづく数字です。
近ごろは100、90、75マイクロメートルという、より厳しい値も出ています。ただ、材料も作りかたも測りかたもばらばら。理想の値について、まとまった合意はありません。
測りかたを変えると、数字は3倍以上ちがう
同じ被せ物でも、測りかたで数値が変わります。そこも押さえておきたいところ。
金属の被せ物のふちを、いろいろな方法で測った数字が並んでいます。
- 顕微鏡でそのまま見る……35マイクロメートル
- 写真で測る……59マイクロメートル
- 電子顕微鏡で見る……89マイクロメートル
- 表面の形を測る……100マイクロメートル、重ね合わせでは102マイクロメートル
- シリコーンで型を採って測る……124マイクロメートル
いちばん小さい値と大きい値で、3倍以上のひらき。数値だけを取り出してよしあしを決めるのは、やはりむずかしいのです。
ふちに汚れがたまる、そちらのほうが効いてくる
では、なぜ数十マイクロメートルを気にするのでしょうか。ふちは細菌のかたまりが付きやすく、しかも磨きにくい場所だからです。
詰め物や被せ物のまわりに起きる二度目のむし歯のうち、80から90パーセントが歯ぐき側のふちに出るという報告があります。材料の種類を問わない傾向です。
いっぽう、隙間の大きさがどれだけ直接むし歯を招くのかは、はっきりしていません。関連はあるけれど、何マイクロメートルを超えたら危ないという線は引けていない。それが現在地です。
ふちが汚れのたまり場になりやすいという性質は、被せ物の形そのものとも関わります。数値としての適合と、毎日の磨きやすさ。別々の軸として設計する必要があります(→ 清掃性の良い形とは|磨ける歯は長持ちする)。
なお、保険の詰め物や被せ物は、平均6〜7年で境目や中にむし歯が再発すると言われています。制度の枠のなかで使える材料と工程が決まっているためで、どこかの医院の姿勢の問題ではありません。
隙間があると、口の中で何が起きるのか
ここまでは、隙間がどこにできるかという話でした。ここからは、その隙間があると口の中で実際に何が起きるのかをご説明します。数値の話はいったん置いておきます。
隙間そのものが痛むわけではありません
まず押さえておきたいのは、隙間があること自体に痛みはない、ということです。問題になるのは、そこに入り込むもののほうです。
被せ物のふちにできたわずかな段差には、歯ブラシの毛先が届きません。フロスも同じところで引っかかります。そこに汚れと細菌がとどまり、時間をかけて次の3つが起きてきます。
隙間から起きること
- ふちからの虫歯:被せ物の下で進むため、外から見えにくい
- 歯ぐきの炎症:一か所だけ腫れる、磨くと血が出る、においが出る
- 接着材が溶ける:浮いた感じがする、外れる、噛むと動く
この3つは、順番に起きることもあれば、同時に進むこともあります。虫歯が進んで接着材が溶ける、逆に外れかけたところから汚れが入る。どちらの向きもあるため、どれか一つだけを見て原因を決めることはしません。
やり直しのご相談で多いのは、1つ目の虫歯です。被せ物の下で進むため、ご自身の目では確認できません。被せ物の下の虫歯については、以下の記事で詳しく解説しています。
ご自身で気づけるサインがあります
次のような変化があれば、ふちのあたりを一度見ておく価値があります。
- フロスが、いつも同じところで引っかかる・ほつれる
- 被せ物と歯の境目だけ、色が濃くなってきた
- その歯のまわりだけ、においが気になる
- 歯ぐきが一か所だけ腫れる、磨くと出血する
- 冷たいものがしみるようになった
- 噛んだときに、わずかに動く感じがある
どれも一つだけで結論は出ません。ただ、同じ歯でいくつも重なっているときは、ふちの状態を確認する理由になります。歯ぐきの腫れが続く場合は、以下の記事もご参照ください。
神経を取った歯は、痛みで教えてくれません
気をつけたいのは、神経を取ってある歯です。中で虫歯が進んでも痛みが出ないため、気づくきっかけがありません。歯ぐきが腫れる、被せ物が外れるといった形で、あとから分かることが多いのです。
被せ物が入っている歯ほど、見た目の変化だけで判断しないほうがよいと考えています。名古屋・伏見の当院で定期的に見ておくことをおすすめしている理由も、ここにあります。しみる・痛むといった症状が続くときの考え方は、以下の記事にまとめています。
当院で被せ物の入っている歯を見るときは、ふちの段差にフロスを通したときの引っかかり、歯ぐきの色と出血の有無、レントゲンで見える被せ物の下の影、この3つを毎回そろえて確認しています。どれか一つでは判断がつかないためです。
合っていない=すぐ作り直し、ではありません
隙間が見つかったからといって、その場で作り直すとは限りません。隙間の大きさ、場所、そして下で虫歯が進んでいるかどうかで、判断が変わります。
ふちが少し見えているだけで、下の歯が健康であれば、経過を見る選択もあります。逆に、見た目に問題がなくても下で進んでいれば、早めに外したほうがよい場合があります。判断の材料になるのは、見た目ではなく中の状態です。
作り替えを検討する目安については、以下の記事で整理しています。
精度を追いきれない場面と、精度だけでは決まらないこと
名古屋市内から通われている方でも、条件がそろわない歯はめずらしくありません。適合を突き詰めても、それだけで寿命が決まるわけではないのです。
ここは正直にお伝えしておきたい部分です。
力の向きと土台の動きは、精度より先に効く
適合が整っていても、噛む力の受けかたが片寄っていれば、材料の側が先に負けます。数十マイクロメートルの管理より、力の向きのほうが大きく効く場面も少なくありません(→ 噛み合わせ設計が被せ物の寿命を決める)。
土台が動いていれば、その上にどれだけ精密なものを載せても意味が薄れます。適合は、土台と歯質が一体として動かないことを前提にしているからです。
残っている歯質が少ない歯では、まず土台の設計から考え直します(→ 土台(コア)の設計と歯の余命)。
神経を取った歯がもろくなる主な理由も、根管を削って壁が薄くなったという構造の変化。適合の管理は、その薄い壁をこれ以上減らさないための手立てでもあります。
情報が欠けた型からは、精度は生まれない
精度を追いきれない場面もあります。ふちが歯ぐきの深い位置にある歯、出血や浸出液が止まらない歯ぐき、歯の頭がほとんど残っていない歯。そうした条件です。
こうした条件では、型取りやスキャンの段階で情報そのものが欠けます。欠けたまま進めば、どの工程をていねいにしても誤差は消えません。
ですから当院では、先に歯ぐきの状態を整えるか、仮歯でふちの位置を作り直す時間を取ります。遠回りに見えて、やり直しの回数は減るのです。
歯ぐきが落ち着くまでの数週間で、ふちの見えかたが変わるのはよくあること。その変化を見てから型取りに進むほうが、採れる情報の質が上がります。
前提が動く時期に、最後の被せ物は作らない
測った数値と、口の中の条件が違う点も押さえておきたいところです。測定の多くは、口の外に置いた模型の上で行われます。
実際の口の中には唾液があり、歯ぐきからにじむ液体があり、舌も頬も動きます。装着のしゅんかんにセメントがどう流れるか。そこまでは数値に含まれていません。
向かない時期も、はっきりしています。
- 歯ぐきの位置が、まだ定まっていない時期
- 歯周の治療が途中の段階
- 矯正で歯を動かす予定があるとき
- 短い期間に、何度もやり直しを重ねてきた歯
- 強い食いしばりのある方、歯ぐきの状態が変わりやすい方
こうした時期に最後の被せ物を作ると、数か月後には前提そのものが変わってしまいます。時間をかけるのが目的ではありません。前提が動かない状態にしてから精度を追う、という順番の問題です。
装着したあとの経過を見る仕組みがあって、はじめて精度は意味を持ちます(→ メインテナンスで寿命はどれだけ変わる)。数値としての適合は装着した日がいちばん良く、そこから先はお口の環境が結果を決めていきます。
ご自身で確かめていただけるところ
- 型取りやスキャンの前に、歯ぐきを整える時間が予定に入っているか
- 仮歯の段階で、ふちの位置と磨きやすさを確かめる工程があるか
- 装着の前に、内がわのどこが当たっているかを調べる手順があるか
- 外した被せ物や以前の資料を、原因を探す手がかりとして見てもらえるか
- 装着後にどこまで調整と経過確認を行うのか、先に聞けているか
外した被せ物の内面が、原因を語ってくれる
伏見の診療室では、外した被せ物の内がわを写真に残しています。装着されていた面は、その歯とどう付き合ってきたかの記録だからです。
ここでは、内がわから何が読めるのかをお話しします。
擦れの跡と浮きかたで、原因の見当がつく
再治療のご相談をお受けするとき、私が最初に時間をかけて見るのは内がわの面です。型取り由来なのか、設計由来なのか。ある程度までは読み取れます。
- 一点だけに強い擦れの跡があり、まわりが触れていない……型取りの段階で情報がゆがんでいた可能性
- 内がわの全体が、均一に浮いている……逃がし量の設定という、設計側の要因
- 全体的に詰まりすぎている……こちらも設計側の要因
- ふちの一部だけが厚く盛り上がっている……境目の情報が採りきれていなかったのかもしれません
- セメントが一方向にだけ薄く、反対側に厚い……被せ物がまっすぐ沈んでいなかった跡
もちろん、これだけで原因を言い切れるわけではありません。レントゲンや歯ぐきの状態、患者さんが語ってくださる経過と合わせて、はじめて筋の通った説明になります。
作る側の工程を通ったから、戻る場所が分かる
こうした読みかたができるのは、作る側の工程を自分の手で通ったからだと思っています。私は米国インディアナ大学の大学院で、補綴学を3年学びました。
その課程では技工の工程まで自分で行い、設計から製作まで一人で仕上げた入れ歯は100床近く。石膏の面を削り、内がわを調整し、装着したときにどこで止まるかを何度も確かめました。
その経験があると、口の中で被せ物が浮いたときに、どの工程へ戻ればよいかの見当がつきます。
記録がそろうまで、バーを歯に当てない
米国での学びで、いまも守っているやりかたがあります。所見がそろうまで歯を削り始めない、という順番です。
適合の上限は、じつは削る形の段階でほぼ決まってしまいます。角度、面の続きぐあい、ふちが歯ぐきに対してどこにあるか。削ったあとでは作り直せません。
ですから、写真、模型、レントゲン、CT、噛み合わせの記録がそろうまで、バーを歯に当てない。日本に戻ってからも、順番は変えていません。
急いで削り始めた日の被せ物ほど、装着の日に時間がかかる。そう経験してきたからです。
順番を守ると、削る前に決めておけることが増えます。ふちをどの高さに置くか、角度をどこまでにするか、内がわの逃がしをどう指定するか。
決めてから削るのと、削りながら考えるのとでは、出来上がる面の続きぐあいが変わります。所見がそろうまで待つのは、慎重さの話ではありません。精度の上限を上げるための実務です。
読むのは、誰かを評価するためではない
大学院の指導医からは、再治療は前の治療の批判ではなく原因の科学だと、くり返し言われました。内がわを読むのも、誰かの技術を評価するためではありません。
同じ誤差をもう一度入れないために、どの工程で何が起きたかを絞りこむ作業です。実際、当時の条件では他に選びようがなかった。そういう結論になることもよくあります。
長く経過を追って分かるのは、同じ場所を短い間隔でくり返し治療した歯ほど、次に選べる方法が減るという点です。やり直しのたびにふちは歯ぐき側へ下がり、残る歯質が細くなる。費用の軸を材料の名前ではなく残る歯質に置くのは、そのためです。
帰国後は、補綴設計や噛み合わせ、治療計画について歯科医師向けのセミナーや講演も行っています。そこで話すのも、工程の順番のことが中心。10年後にどうなっていてほしいかを先に決めてから、今日の削る形を決める(→ 10年後から逆算する治療設計|具体的な設計手順)。
名古屋で今回を最後のやり直しにするために
名古屋で今回を最後のやり直しにしたいとお考えなら、見るべきは数値そのものより工程の並びです。
ここまでの要点をまとめます。
数値を目標にせず、誤差の入る工程を減らす
- 適合は完成品の性能ではなく、削る形から装着までを積み上げた結果
- 許される隙間の値には幅があり、まとまった基準はありません
- 測りかたが変われば、数値も3倍以上変わります
- ふちが歯ぐき側へ下がるほど、次の管理はむずかしくなる
- 今回を最後にするという発想は、残る歯質を守る発想と重なります
- 装着した日がいちばん良く、そこから先は毎日の環境が決めていく
設計の全体像は、こちらでまとめています(→ 再治療を繰り返さないための設計【完全ガイド】)。
同じことを繰り返さないための考えかたは、装着後の付き合いかたも含めて整理しました(→ やり直したあと、同じことを繰り返さないために)。
まずは無料相談で構いません。いまの状態を一緒に確かめるところから、で大丈夫です。いまある被せ物のご相談は、セカンドオピニオン外来(5,500円)でもお受けしています。
作り替えをご検討なら、オールセラミッククラウンとジルコニアクラウンがいずれも187,000円。ジルコニアセラミッククラウンは220,000円、セラミックインレーは99,000円です。
よくあるご質問|確かめかたと、型取りの方法
Q1. 適合のよしあしは、どうやって確かめるのですか。
探針という細い器具で境目をなぞる、フロスの引っかかりを見る、レントゲンでふちの像を確かめる。こうした方法を組み合わせます。
ただし、数十マイクロメートルの差を口の中で数値として測ることはできません。測りかたによって35から124マイクロメートルまで結果が変わるほどです。ですから当院では、装着前に内がわの当たりを調べる工程と、装着後の経過を見る工程を予定に入れています。
Q2. デジタルの型取りのほうが精密なのですか。
1本だけの被せ物なら、口の中で読み取る方法が107マイクロメートル、材料を使う方法が173マイクロメートルという比較があります。
ところが口全体では、両者は同等という結論。範囲が広がるほど誤差が積み上がる、という理解が実態に近いと考えています。当院では口腔内スキャナーを用意していますが、歯の状態で従来の方法を選ぶことも。
よくあるご質問|内がわのきつさと、前の被せ物の見かた
Q3. 被せ物の内がわは、詰まっているほど良いのですか。
そうとはかぎりません。内がわの逃がしを30マイクロメートルまで狭めた設定では、ふちのずれがいちばん大きく、およそ144から174マイクロメートルに達したと報告されています。
60や120マイクロメートルの設定のほうが、良い結果でした。内がわをきつくしすぎると被せ物が最後まで座らず、そのぶんふちが浮くからです。仮歯(4,400円)の段階で沈みこみかたを確かめておくと、調整がしやすくなります。
Q4. 前の被せ物は、合っていなかったということでしょうか。
そう決めつけないところから始めます。当時の歯ぐきの状態、残っていた歯質、選べた材料や工程によって、条件は大きく変わります。
外した内がわを見て分かるのは、どの工程で誤差が入りやすかったかという手がかり。誰かの技術の評価ではありません。次に同じ誤差を入れないための情報として扱います。
ここでご説明したのは、一般的な考えかたです。同じ症状でも、原因や適した方法は人によって変わります。実際の診断と治療方針は、診査のうえで決まるものです。
名古屋市中区栄1丁目4-8 カジウラビル4F/地下鉄「伏見駅」6番出口 徒歩2分
完全予約制・完全個室/CT・口腔内スキャナー/Zoom相談あり
※お口の状態には個人差があり、適した治療や結果は人によって異なります。
※検査・診断のうえ、費用・期間・主なリスクをまとめてご説明します。ご相談の段階で治療をお決めいただく必要はありません。
監修者情報

EDEN DENTAL OFFICE (エデン デンタル オフィス)
院長 村井亮介
名古屋中区の伏見駅から徒歩2分の「エデンデンタルオフィス」では、米国補綴専門医の資格を持つ院長が、10年、20年先を見据えた精密な治療を提供します。歯科医院特有の緊張感を和らげるため、家族のように寄り添う丁寧な対話を重視。患者様の背景や「どうなりたいか」という想いを深く汲み取り、できる限りの最高の治療クオリティーを常に心掛けております。
経歴
- 愛知学院大学歯学部歯学科卒業
- 大手歯科医療法人勤務
- インディアナ大学歯学部補綴科卒業
資格
- 米国補綴専門医
所属学会
- 日本補綴歯科学会
- ACP american academy of prosthodontics member
- ITI international team
for implantology 会員 - AO academy of
osseointegration 会員
CONSULTATION 無料相談・セカンドオピニオン
インプラントをはじめ、審美補綴や義歯などの外科的治療に関するご相談を承っております。その他の治療内容についてもお気軽にお問い合わせ下さい。



