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噛み合わせと顎の痛み|顎関節への配慮
「噛み合わせのせいで顎が痛い」は、どこまで分かっているのか
「噛み合わせを直せば顎の痛みは消える」。そう思われがちですが、そうとは限りません。関連があるという報告は増えていますが、原因と結果の関係はまだ確かめられていないからです。名古屋で噛み合わせと顎の痛みのご相談をいただくときも、私は元に戻せる方法から順に考えます。この記事では、顎に症状があるとき、お口全体の治療をどこに置き、どんな順番で進めるのかを、研究の報告に沿って整理します。
この記事でわかること
- 噛み合わせと顎の痛みに関連の報告はありますが、原因とは言い切れません
- 顎の症状は3人に1人近くが経験する、珍しくないものです
- 顎に症状があるときは、元に戻せる方法から順に試します
- お口全体の治療は、症状が落ち着いてからの選択肢です
関連を示す報告は積み重なっている
顎の痛みで来られる方の多くが、どこかで「噛み合わせが原因」と説明されています。この説明は半分当たっていて、半分は言い過ぎです。
2025年に医学誌Medicinaで、複数の研究をまとめた調査が出ています(Pascuら、29論文を検討)。噛み合わせのずれ、深い噛み合わせ、上下の歯が左右にずれて当たる人ほど、顎関節症の症状が多かったという内容です。症状とは、下顎が横にずれる、噛む筋肉を押すと痛む、といったものです。
ずれの型ごとの集計もあります。2025年のHead & Face Medicine誌の研究(Luoら、32の研究・11,348名、うち顎関節症3,492名)では、ずれのある人の43パーセントに顎関節症がみられました。片側だけ噛み合わせが逆の人では59パーセント、上下の前歯が噛み合わない人では42パーセントです。
それでも「原因」とは言い切れない
ところが2つの調査は、どちらも同じ但し書きで締めくくられています。Pascuらは「噛み合わせの異常は顎関節症と関連するが、観察した研究が大半のため因果関係は確立できない」と述べています。Luoらも「直接の因果関係は不明確である」とし、研究ごとの結果のばらつきが極端に大きいと明記しています。
関連があることと、原因であることは違います。一緒に起きやすいだけでは、片方を変えればもう片方が変わるとは言えません。顎関節症には、体の状態、暮らし方、睡眠、心の負担が重なって関わると考えられています。国際的な診断の決まりであるDC/TMDも、体の所見と、暮らしや心の状態の両方を見て評価します。
顎の症状は珍しくありません
もうひとつ、数字をお伝えします。2025年発表の世界の調査(Alqutaibiら、27研究・20,971名)では、顎関節症は全体の29.5パーセントにみられました。女性は36.7パーセント、男性は26.7パーセントです。症状別では、噛む筋肉の痛みが37.2パーセント、関節の音が29.8パーセント、関節の痛みが16.8パーセント、口が開きにくい状態が8.1パーセントです。
3人に1人近くが、何らかの症状を経験している計算です。長く我慢してこられた方も、特別ではありません。名古屋で噛み合わせと顎の痛みを相談される方に、私が最初にお伝えするのもこの点です。
「噛み合わせのせい」と説明されやすい理由
それでも「噛み合わせが原因」という説明が広く行われるのはなぜか。ひとつは、噛み合わせが目に見えて、その場で確かめられるからです。ストレスや睡眠の質は、診療室で短時間には測れません。けれども当たりの偏りは、紙を噛んでいただけば数分で分かります。説明しやすいものが、原因に選ばれやすいのです。
もうひとつは、噛み合わせを整えたら症状が軽くなったという経験があるためです。ただし顎関節症の症状は、時間とともに強くなったり弱くなったりします。何かをした後で軽くなっても、それが理由だったとは限りません。
顎が痛いときの選択肢を、元に戻せるかどうかで比べる

では顎に痛みがあるとき、何から手をつけるのでしょうか。ここで先に立てる軸は、効果の大きさではなく「元に戻せるかどうか」です。
国内外の手引きが示している順番
日本顎関節学会の「顎関節症初期治療診療ガイドライン2023改訂版」は、大人の筋肉の痛みと関節の痛みに対して、自分で行う口の開け閉めの練習と、取り外し式の装置(スプリント)をすすめています。ただしどちらも「弱い推奨」で、根拠の確かさは「非常に低い」とされています。歯を削って当たりを整えるやり方については、比べた試験そのものがなく、すすめる段階に至っていません。
海外も同じ方向です。英国のDental Update誌に2024年に載った総説(Jamesら)は「元に戻せない処置は、極めて慎重に用いるべきである」と述べています。元に戻せる方法を尽くしたうえで、それなりの改善が見込める場合に限るべきだ、という立場です。
進め方の比較
| 進め方 | 元に戻せるか | 報告されている利点 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自分で行う開け閉めの練習・セルフケア | 戻せる | 費用も体の負担もほとんどかからない。日本顎関節学会2023年改訂版で「弱い推奨」 | 根拠の確かさは「非常に低い」。続けられることが前提になる |
| 取り外し式の装置(スプリント) | 戻せる | 8件の試験・400名超をまとめた調査で、痛みの減り方に中くらいから大きい効果(SMD 0.75) | 確かさは「中等度」。長く続くかのデータが足りない。睡眠中の呼吸への影響も指摘されている |
| 咬合調整(歯を削って当たりを整える) | 戻せない | 当たり方の偏りをその場で減らせる。ただし顎関節症の予防・治療として支える根拠は示されていない | 削った歯は元に戻らない。日本の手引きでもすすめる段階にない |
| お口全体での噛み合わせの作り直し | 戻せない | 噛む働きと歯の形をまとめて設計し直せる。中くらいの高さの変更が長期の顎の症状を生む示唆はないとの報告 | 顎の痛みを取るための根拠ではない。症状が落ち着いてからの選択肢 |
(スプリントの数値:Guptaら、2025年、The Saudi Dental Journal。高さの変更についての報告:Moreno-Hay & Okeson、2015年、Journal of Oral Rehabilitation)
数字の読み方には注意が要ります
スプリントをまとめた調査は、期待の持てる結果です。噛む筋肉からくる症状で効果が大きく、口の開く量、食べる・話すときの不自由さ、暮らしの満足度でも改善が報告されました。ただし著者らは、いくつも限界を挙げています。まとめられた試験が8件にとどまること、研究ごとのばらつきがあること、良い結果の論文ほど発表されやすい偏りが疑われることです。追跡が3か月以内のときに効果が大きく出ていた点も、長く続く保証を意味しません。
表の上2行と下2行は、目的が違います
比較表を見るときに、もうひとつ気をつけていただきたいことがあります。上の2行と下の2行は、そもそも目的が別だということです。上の2行は、顎の症状そのものへの対応です。下の2行は、噛む働きや歯の形を作り直すための処置です。下の2行に「顎の痛みが取れる」ことを期待して進めると、期待と結果がずれます。同じ表に並んでいても、比べているのは効果の大きさではありません。どの目的に、どれだけ引き返す余地を残せるか、という点です。
ですから「マウスピースをすれば良くなります」とはお伝えできません。「試してみる価値のある、元に戻せる方法です」というのが、私の言える範囲です。装置をどう作り、何を確かめるために使うのかは、専用の記事で扱っています。目的が分かると、続ける意味も見えてきます。
なお、寝ている間や日中の強い力が背景にある場合は、設計の考え方そのものが変わります。顎の症状と力の問題は重なることが多いので、あわせてお読みいただくと分かりやすくなります。
顎に不安があるとき、お口全体の治療の限界と、待つべき時期

ここからは、正直にお伝えしたいところです。顎に症状のある方にとって、お口全体の治療は万能な答えではありません。
期間と通院の負担を、先に見ておく
お口全体を設計し直す治療は、検査と診断だけで複数回かかります。仮歯で確かめる期間まで含めると、月の単位の時間がかかります。顎に症状がある方では、症状が落ち着くのを待つ期間が前に加わるため、さらに長くなるのが普通です。通院のたびに口を長く開ける必要もあり、顎への負担そのものが検討事項になります。
口を開け続ける負担は、実際に相談の場で問題になります。ふだんなら気にならない長さでも、顎に症状のある方には長く感じられます。名古屋・伏見の当院では、1回の時間を短く区切る、途中で休憩を挟む、大きく口を開ける処置を1日にまとめない、といった調整ができるかどうかを、治療計画の段階で一緒に決めています。
保険が使える範囲と、自費で扱う範囲は違います
費用についても、現実に即して考える必要があります。保険が使える範囲と自費の範囲では、そもそも守備範囲が違います。保険は、傷んだ場所の働きを回復することを基本の単位として組み立てられています。顎の症状への対応や装置は、その範囲に含まれます。一方、お口全体の高さを決め直し、仮歯で長く確かめてから作り直すという進め方は、自費で扱われることが多くなります。どちらが優れているという話ではありません。目的が違えば使う仕組みも変わる、という整理です。当院では検査と診断のうえで、見積りを治療の前にお渡ししています。金額を見てから決めていただけます。
「痛いから全部やり直す」という順番の危うさ
私がお引き受けを急がないのは、この順番が持つ危うさのためです。痛みを理由に大がかりな治療を始めて、それでも痛みが残った場合、費用と、元に戻せない口の変化の両方が残ります。逆に、元に戻せる対応で症状が落ち着いた後であれば、お口全体の治療は「噛む働きや見た目をどうしたいか」という別の目的で、落ち着いて選べます。
相談の前に、ご自身で整理しておけること
- ☑ いまの痛みの強さ。食事が限られる、口が指2本分開かない、夜眠れないほど痛むときは、症状への対応が先になります
- ☑ いつから続いているか。数週間なのか数年なのかで、進め方は変わります
- ☑ 元に戻せない処置を受けたか。噛み合わせを削って調整された経験があれば、その後の経過が判断の材料になります
- ☑ 歯そのものの問題があるか。欠けた・抜けた・グラつくといった問題は、症状の落ち着きを待たずに対応できることもあります
深い噛み合わせが背景にある場合と、すり減りで高さが下がっている場合とでは、設計の考え方が違います。ご自身がどちらに近いかを知っておくと、相談のときの質問が具体的になります。噛み合わせの一部だけに力が集まる状態そのものは、別の記事で詳しく扱っています。
あわせて読みたい
- :顎の症状の背景に高さの低下があるかを知りたい方へ
- :他院で大がかりな治療をすすめられ、判断に迷っている方へ
顎の症状がある方の治療計画で、私が先に決めていること
被せ物や入れ歯で歯を補う分野を学ぶため、私が籍を置いたのは米国のIndiana大学大学院でした。3年間の課程で、MSDとCertificate in Prosthodonticsを取得しています。治療計画の授業でいちばん時間を割かれたのは、個々の歯の治し方ではなく「治療の順番をどう決めるか」でした。順番を誤った治療は、後から正しい手つきで埋め合わせられないからです。
最初に決めるのは、治療の内容ではありません
顎の痛みを伴う方の相談で、私が最初に決めるのは治療の内容ではありません。「いま、元に戻せない処置に進んでよい状態かどうか」です。ここを飛ばして設計に入ると、後から順番を戻せません。指導医から繰り返し言われたのは「1本の歯を診る前に、顔と噛み合わせの全体を診ろ」という言葉でした。痛む場所が原因の場所とは限らない、という戒めでもあります。
顎関節は、この言葉がいちばん当てはまる場所です。噛む筋肉の痛みが、歯の痛みとして感じられることがあります。関節の痛みが、耳のあたりに広がることもあります。ですから私は、痛むと言われた歯だけを見て「この歯を治しましょう」とは申し上げません。顔の形、開け閉めの動き、筋肉を押したときの痛み、上下の当たり方を順に確かめます。当院ではCTと口腔内スキャナーで、顎関節まわりの骨の形と、いまの噛み合わせの当たる点を記録します。何をどう調べるかは、検査の記事で詳しく整理しています。
治療計画とは、着手する順番まで決めること
治療計画は「どの歯に何をするかの一覧」と受け取られやすい言葉です。しかし大学院で教わった治療計画は、着手する順番を決めるところまでを含んでいました。処置の組み合わせが同じでも、順番が違えば結果は変わる。その前提に立った教え方です。
顎に症状がある方では、この差がはっきり出ます。まず元に戻せる対応で症状を落ち着かせ、そのうえで噛む働きをどうするかを決める。この順番なら、途中で「やはり今は進めない」と判断しても、失うのは時間だけです。逆の順番で進めると、症状が残ったときに戻る場所がありません。名古屋の診療室でも、初回に私がお伝えするのは治療の内容ではなく、この順番のほうです。
仮歯の期間に、顎が受け入れるかを見る
顎に症状がある方にとって、仮歯(治療のあいだ入れておく仮の歯)の期間は、もうひとつの意味を持ちます。新しい噛み合わせを顎が受け入れるかを、削り直せる材料のまま確かめられる期間だということです。噛み合わせの高さ、発音、見え方を確かめます。あわせて、朝の顎のだるさや開けにくさが増えていないかを見てから、最終の歯にします。ここで症状が動くようなら、まだ設計を戻せます。順番を守るとは、こうした「戻れる地点」を計画の中に置いておくことです。
高さを変えることへの不安について
「高さを変えたら顎を壊すのでは」というご不安は、ほぼ毎回いただきます。この点は、67本の文献を検討した調査(Moreno-Hay & Okeson、2015年、Journal of Oral Rehabilitation)が参考になります。装置で高さを変えている期間を調べたGough & Setchellの研究が整理されています。94パーセントの方は、その間に不快感を訴えていません。軽い筋肉の不快感は2パーセント、中くらいの機能の不自由は4パーセントです。軽い症状が出た場合も1〜2日から1〜2週間で消えたという報告や、55年の追跡で顎の症状がみられなかった報告も挙げられています。結論は「高さを恒久的に変えることが、長期の顎の症状を生むという示唆はない」というものでした。
ただし著者自身が限界も明記しています。比べた試験がないこと、対象の人数が少ないこと、比べる相手の群がないこと、長い追跡が足りないことです。安心の材料にはなりますが、保証ではありません。治療が終わった後に噛み合わせをどう保つかは、また別のテーマです。
まとめ|名古屋で噛み合わせと顎の痛みに向き合うために
噛み合わせと顎の痛みには関連の報告がありますが、原因と結果の関係は確かめられていません。ですから、噛み合わせを変えることが顎の痛みの解決策だとは言えず、効果やその後の経過には個人差があります。日本と海外の手引きが共通して示しているのは、まず元に戻せる方法から始め、症状が落ち着いてから、削る・被せるといった元に戻せない設計に進むという順番です。
いま顎が痛い方は、お口全体の治療をするかどうかを、ご自身で判断しなくて構いません。まずは症状の状態を診断し、元に戻せる対応で様子を見る段階からで十分です。噛む働きや歯の破損の連鎖という課題が残るようなら、そのときに全体の設計を考えれば十分です。名古屋で噛み合わせと顎の痛みについて迷っておられるなら、まず無料相談で構いません。当院ではカウンセリングルームは完全個室、診療室は半個室としています。何年ぶりでも、経過をおうかがいするだけの時間として使っていただけます。噛み合わせ全体の作り直しという考え方を順序立てて知りたい方は、こちらにまとめています。
よくあるご質問
Q1. 何年も顎の痛みを我慢してきました。今から相談しても遅くないでしょうか。
遅すぎるということはありません。顎関節症は、世界でみると3人に1人近くが経験する症状です。長く付き合ってこられた方は、珍しくありません。私は経過をおうかがいするだけで、放っておいたことを責めることはしません。むしろ、いつからどう変わったかという時間の情報は、診断のうえで貴重な材料になります。何もせずにお帰りいただく日があっても構いません。
Q2. 「噛み合わせを削って調整すれば治る」と言われました。受けるべきでしょうか。
判断はご自身にありますが、材料として知っておいていただきたいことがあります。歯を削って当たりを整えるやり方は、顎関節症の予防・治療として支える根拠が示されていません。日本顎関節学会の2023年改訂版の手引きでも、すすめる段階に至っていません。削った歯は元に戻せません。迷われるようでしたら、進める前にもう一つの意見を聞くという選択肢もあります。当院にはセカンドオピニオン外来(5,500円税込)があり、Zoomでのご相談にも対応しています。
Q3. マウスピースを作れば、顎の痛みは良くなりますか。
良くなる方もいますが、結果には個人差があります。8件の試験をまとめた2025年の調査では、痛みの減り方について中くらいから大きい効果が報告されました。ただし著者らは、研究の数が少ないこと、長く続くかのデータが足りないこと、良い結果ほど発表されやすい偏りの疑いを、限界として挙げています。効果を約束できるものではありません。外せば元に戻せる方法として試す価値がある、という位置づけでご理解ください。
Q4. 顎の痛みが残っていても、欠けた歯や抜けた歯の治療は進められますか。
内容によります。急ぎの処置や、痛みや感染への対応は、顎の症状の落ち着きを待たずに進められることが多くあります。一方で、噛み合わせの高さを変える設計や、複数の歯にまたがる元に戻せない処置は、症状が安定してからのほうが判断を誤りにくくなります。何を先にして何を待つかは、検査のうえで一緒に整理していきましょう。今日やらないことにも理由が付いていれば、待つ時間の意味は変わります。
※お口の状態には個人差があり、適した治療や結果は人によって異なります。
検査・診断のうえで、費用・期間・主なリスク(治療中の一時的な違和感、仮歯の破損、症状が想定どおりに変化しない可能性、通院回数の増加など)をまとめてご説明します。ご不明な点は、その場でお尋ねください。
監修者情報

EDEN DENTAL OFFICE (エデン デンタル オフィス)
院長 村井亮介
名古屋中区の伏見駅から徒歩2分の「エデンデンタルオフィス」では、米国補綴専門医の資格を持つ院長が、10年、20年先を見据えた精密な治療を提供します。歯科医院特有の緊張感を和らげるため、家族のように寄り添う丁寧な対話を重視。患者様の背景や「どうなりたいか」という想いを深く汲み取り、できる限りの最高の治療クオリティーを常に心掛けております。
経歴
- 愛知学院大学歯学部歯学科卒業
- 大手歯科医療法人勤務
- インディアナ大学歯学部補綴科卒業
資格
- 米国補綴専門医
所属学会
- 日本補綴歯科学会
- ACP american academy of prosthodontics member
- ITI international team
for implantology 会員 - AO academy of
osseointegration 会員
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