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噛み合わせが原因で取れるメカニズム
まっすぐ噛む力では、装置は外れにくいのです
「接着材の問題ではなく、噛み合わせが原因かもしれません」。そう説明されて、腑に落ちなかった方もいらっしゃると思います。噛むのは毎日していることで、その歯だけ特別に強く噛んでいる自覚もない。それでもなぜ、その歯だけ外れるのか。この記事では、力がどう働くと装置が外れるのかを、力の向きという視点からご説明します。
はじめに、力の向きの話をさせてください。ここが分かると、あとの話がすべてつながります。
被せ物は、削った歯の側面を抱えることで留まっています。上からまっすぐ押される力に対しては、この構造はとても強くできています。押されれば押されるほど、歯に密着するからです。
問題は、横向きの力です。
身近なもので言い換えてみます。円錐形の栓を、同じ形の穴に差し込んだ状態を想像してください。上から押しても抜けません。ところが、横に揺すると、少しずつ緩んできます。同じ栓、同じ穴でも、力の向きひとつで結果が変わります。
お口の中でも同じことが起きています。食べ物を噛み砕くとき、下の顎はまっすぐ上下に動くわけではありません。横に滑らせる動きが加わります。このとき、装置には斜めの力がかかります。
これが一部の歯に集中すると、その歯の装置だけがゆっくり緩んでいきます。1回で外れるわけではありません。毎日、少しずつです。
だから、ご本人には自覚がないのです。強く噛んだ記憶もなければ、痛かった記憶もない。ある日、食事中にぽろりと取れる。それまでのあいだ、何も感じないのが普通です。
もうひとつ、力の大きさについても触れておきます。噛む力そのものが強い方では、装置の破折が起こりやすいという報告があります。ただ、外れることに関しては、力の大きさより向きのほうが効きます。強く噛む方でも、まっすぐ受け止められていれば装置は保たれますし、力が弱くても斜めに集中していれば緩みます。
ですから、当院では「噛む力が強いですね」で終わらせません。どの向きに、どこへ集まっているのかまで見ます。
取れる原因は噛み合わせだけではありません。全体の整理は別の記事にまとめています(→ 詰め物がすぐ取れる7つの原因)。この記事では、力の話に絞ります。
もうひとつ、なぜ外れる前に痛みが出ないのかもご説明しておきます。歯の周りには、噛んだ力を感じ取る仕組みがあります。ただ、この仕組みが反応するのは、ある程度以上の力が加わったときです。装置を少しずつ緩ませる程度の斜めの力は、この仕組みの下をくぐり抜けます。
神経を取った歯であれば、なおさら気づけません。ですから、症状がないことを安心の材料にしないほうが安全です。感じないことと、起きていないことは別です。
どこに力が集まると外れるのか

力が集中する場面は、いくつかに分かれます。
その歯だけ早く当たる
何が起きているか:噛み込んだときに、他の歯より先に接触する。力が一点に集まる
どう対処するか:当たり方を紙で確かめ、わずかに調整する
横に動かしたときに擦れる
何が起きているか:顎を横に滑らせたとき、その歯が引っかかって斜めの力を受ける
どう対処するか:滑らせる動きを確かめ、干渉している部分を整える
夜間の食いしばり
何が起きているか:眠っているあいだ、長時間にわたって力がかかり続ける
どう対処するか:夜間の装置を検討する。装置の厚みも見直す
噛み合う相手が硬い
何が起きているか:相手の歯が金属やセラミックだと、力が逃げにくい
どう対処するか:相手側の形も含めて、当たり方を設計する
失った歯があり、負担が偏っている
何が起きているか:本来分散すべき力が、残った歯に集まっている
どう対処するか:失った部分をどう補うかから考える
いちばん下の行は、見落とされやすいところです。歯を1本失ったまま放置していると、残った歯がその分の力を引き受けます。噛み合う相手がいなくなった歯は、少しずつ伸びてきますし、隣の歯は空いた隙間に傾いてきます。歯列の形そのものが変わると、力の通り道も変わります。
取れやすい歯が1本だけであっても、その原因が離れた場所にあることがある、というのはこの理由です。
この表でとくにお伝えしたいのが、上から2番目です。
噛み込んだときの当たりだけを見ても、足りません。顎を横に滑らせたときに、どこが擦れているか。ここが装置を外す方向にいちばん効きます。
本来、横に動かしたときは、犬歯のあたりが主に受け止めて、奥歯は離れるのが理想とされています。ところが、犬歯が削れていたり、被せ物の形が合っていなかったりすると、奥歯が擦れ続けます。奥歯は上下に噛み砕く役割ですから、横向きの力には向いていません。
夜間の食いしばりについても、正直にお伝えします。
1,000本以上の被せ物を長く追いかけた調査では、食いしばりのある方で、被せ物がうまくいかない割合が高いという結果が出ています。セラミックの装置についても、同じ方向の報告があります。
ただし、食いしばりの判定は、ご本人の自覚や問診に頼る部分が大きく、正確に分けられていないことが多いのが実情です。ですから、この数字は控えめに読む必要があります。
そして、夜間の装置を使えば取れなくなる、と言い切ることもできません。装置が被せ物の外れる割合をどれだけ下げるかを、しっかり調べた研究は限られています。理屈としては通っているのでおすすめすることはありますが、それだけで解決するという説明はしていません。
支えになる歯がどれだけ残っているかという話も、力の受け止め方に関わります(→ フェルールとは|歯を残せるかの分かれ目)。
もうひとつ、時間の話をしておきます。噛み合わせは、入れた日のまま変わらないわけではありません。歯は少しずつすり減りますし、歯ぐきの位置も動きます。詰め物や被せ物を新しく入れれば、そこだけ硬さが変わります。
ですから、入れたときは合っていた噛み合わせが、数年後にはずれていることがあります。「前は取れなかったのに」というお話の背景に、この変化があることは少なくありません。定期的に当たり方を確かめる意味は、ここにあります。
ご自身で気づける手がかり
力のかかり方は、鏡では見えません。ただ、手がかりはいくつかあります。
ひとつ目は、朝の状態です。起きたときに顎がだるい、こめかみが重い、歯が浮いた感じがする。こうしたことがあれば、夜間に力がかかっている可能性があります。
ふたつ目は、頬の内側です。舌でなぞってみてください。噛み合わせの高さのところに、白い線のような盛り上がりがあることがあります。頬の粘膜を噛みしめている痕です。
三つ目は、舌の縁です。舌の側面に、歯の形に沿った波打つ跡がついていることがあります。舌を強く歯に押し当てている痕跡です。
四つ目は、歯そのものです。前歯の先端が平らにすり減っていないか。犬歯の尖りがなくなっていないか。左右で見比べてみてください。
五つ目は、日中の癖です。本来、口を閉じていても上下の歯は触れていないのが自然な状態です。パソコンに向かっているとき、運転しているとき、ふと気づくと歯が当たっていないか。意識してみてください。
この最後の一つは、気づけばその場で変えられます。当たっていると気づいたら、力を抜く。それだけでも、日中の負担はずいぶん減ります。
もうひとつ、装置そのものの見え方でも気づける点があります。取れた装置や、いま入っている被せ物の噛む面を見て、一部だけが光っていないか確かめてください。他より磨かれたように見える部分があれば、そこに繰り返し力がかかっている痕です。
金属の被せ物なら分かりやすく、セラミックでも表面の質感が変わることがあります。これは、こちらが診るときにも重要な手がかりにしています。
受診の前に、次のことを整理していただけると診断が早く進みます。分かる範囲で構いません。
- 朝起きたときに、顎がだるいことはありますか
- 頬の内側や舌の縁に、跡がついていますか
- 取れるのは、いつも同じ歯ですか
- 失った歯や、治療していない歯はありますか
- 歯ぎしりを指摘されたことはありますか
4番目には理由があります。歯が1本欠けていると、その分の力を他の歯が引き受けます。負担が偏れば、そこに集中します。取れやすい歯が1本だけであっても、原因が離れた場所にあることがあります。
同じ歯が何度も取れる背景については、別に整理しています(→ 同じ歯ばかり取れるのはなぜ?)。
もうひとつ、ご家族に見てもらう方法もあります。夜間の歯ぎしりは、音が出ることがあります。ご自身では分かりませんので、同居されている方に「寝ているときに音がしないか」を聞いてみてください。音が出ないタイプの食いしばりもありますので、音がないから力がかかっていない、とは言えませんが、あれば有力な手がかりになります。
お子さんの歯ぎしりを気にされる方もいらっしゃいますが、成長の過程で見られることもあり、大人とは意味が違います。ここでお話ししているのは、被せ物の入った大人の歯についてです。
名古屋の診療室で、力をどう見ているか
私は米国Indiana大学大学院で補綴学を3年間学び、MSD(補綴学の修士)とCertificate in Prosthodonticsを取得しました。補綴というのは、被せ物や入れ歯で歯の形と働きを回復させる分野です。
そこで繰り返し教わったのは、装置は1本で完結しないということでした。1本の被せ物がどれだけ精密にできていても、その歯にかかる力が他の歯との関係で決まる以上、口全体を見なければ設計できません。
ですから、取れやすい歯を診るとき、私はその歯だけを見ません。
私が確認している順番は、次の4つです。
- 噛み込んだときの当たり:紙を噛んでいただき、その歯だけ先に当たっていないかを見ます
- 横に動かしたときの擦れ:顎を左右前後に滑らせていただき、どこが引っかかるかを確かめます
- 力の痕跡:歯のすり減り、頬の内側の線、舌の縁の跡を見ます
- 歯列全体:失った歯がないか、負担が偏っていないかを確認します
1番目と2番目は、歯を削らずに調べられます。ですから、取れやすい歯ではまずここから確認します。ここで解決すれば、それ以上は触りません。
調整といっても、大きく削るわけではありません。当たりが強すぎるところを、ごくわずかに整えるだけです。それでも、力の向きは変わります。
ただし、正直にお伝えしておきます。噛み合わせの調整で取れなくなることを、しっかり確かめた研究は多くありません。調整の効果が確かめられているのは、主に治療直後の痛みについてです。何か月も続く問題への効果は、まだ十分に調べられていません。
それでも私が最初に確認するのは、歯を削らずに済むからです。効くかもしれないことのうち、失うものがいちばん少ない。だから先に試します。
そして、調整には順番があります。まず、噛み込んだときの当たりを整えます。次に、横に滑らせたときの引っかかりを見ます。この順番を守らないと、片方を直したせいでもう片方が崩れることがあります。1回で終わらせず、数回に分けて確かめながら進めることもあります。
そして、力の問題が疑われる場合、装置の設計そのものも変えます。噛む面の傾きを少し変える、当たる位置をずらす、厚みを確保する。作る側の設計で吸収できる部分があります。
技工の工程まで自分の手で行ってきたことが、ここで効いています。設計から製作まで一人で仕上げた入れ歯は100床近くになりました。入れ歯は、力の配り方そのものを設計する装置です。どこで受けて、どこで逃がすか。この感覚があると、被せ物1本の形を決めるときにも、力の向きから逆算できます。
接着材の選び方については、別に整理しています(→ 接着(セメント)の種類と外れやすさ)。取れた装置を戻せるかどうかは(→ 取れた被せ物は再利用(再装着)できる?)をご覧ください。
最後に、費用と回数についても触れておきます。噛み合わせの確認と調整そのものは、大がかりな処置ではありません。ただ、力の通り道を整えるには、数回に分けて確かめながら進めることがあります。1回で終わらせようとすると、削りすぎることになるためです。
装置を作り直す場合も、力の設計を含めて組み直すと、その分の工程が加わります。検査と診断のうえで、回数と費用の見込みを治療の前にお示しします。
そして、力の話は1本の歯で完結しません。取れやすい歯を診るときに歯列全体を見るのは、この理由からです。欠けたままの歯があれば、そこをどう補うかから考え直すこともあります。遠回りに見えるかもしれませんが、原因が離れた場所にあるなら、そこに手を入れなければ止まりません。
まとめ|名古屋で噛み合わせが気になる方へ + よくあるご質問

被せ物は、上からまっすぐ押される力には強くできています。外す方向に働くのは、横向きの力です。顎を滑らせたときに擦れる、その歯だけ早く当たる、夜間に長時間力がかかる。こうした条件が重なると、装置はゆっくり緩んでいきます。
1回で外れるわけではないので、ご本人には自覚が出ません。だから「噛み合わせが原因」と言われても、腑に落ちにくいのです。
ご自身で気づける手がかりは、朝の顎のだるさ、頬の内側の白い線、舌の縁の跡、歯のすり減り、そして日中に歯が触れていないかです。とくに最後の一つは、気づけばその場で変えられます。
名古屋・伏見の当院では無料相談を行っており、セカンドオピニオン外来は5,500円(税込)です。検査と診断のうえ、費用・期間・主なリスクをまとめてご説明します。Zoomでのご相談も承っています。完全予約制・完全個室で、地下鉄「伏見駅」7番出口から徒歩2分です。
被せ物や詰め物が何度も取れることについて全体を見渡したい方は、ハブとなる記事から入っていただくと、ご自身の状況を位置づけやすくなります(→ 被せ物・詰め物が何度も取れる原因と治し方【完全ガイド】)。
あわせて読みたい
- 神経を取った歯の被せ物を選ぶ方へ(→ 根管治療後の被せ物の選び方)
- 欠けや割れが起きている方へ(→ セラミックが欠けた・割れたときの対処)
- やり直したあとに繰り返さないために(→ やり直したあと、同じことを繰り返さないために)
ご自身で整理していただけるのは、朝の顎の感じ、頬の内側や舌の縁の跡、そして取れるのがいつも同じ歯かどうか、この3つです。どれも受診の場でお伝えいただければ、診るべき場所が絞れます。
よくあるご質問
Q1. 噛み合わせが原因と言われましたが、自覚がありません。
自覚がないほうが普通です。装置が緩むのは1回の強い力ではなく、毎日の小さな積み重ねだからです。痛みも出ませんし、強く噛んだ記憶も残りません。ですから、ご自身の感覚ではなく、紙を噛んでいただいて当たり方を見る、歯のすり減りを確かめる、といった方法で調べます。
Q2. 噛み合わせを削って調整すると、歯が減りませんか。
減ります。ただし、調整で触るのはごくわずかな範囲です。当たりが強すぎるところを整えるだけで、形を大きく変えるわけではありません。それでも、削る以上は元に戻りませんので、当院ではどこをどれだけ触るかを先にご説明します。逆に、調整せずに力が集中したままにすると、装置が外れ続け、そのたびに歯が削られます。どちらが減るかを比べたうえで判断しています。
Q3. ナイトガードを作れば、もう取れなくなりますか。
そこまでは申し上げられません。夜間の力を分散させる目的で使われますが、被せ物が外れる割合をどれだけ下げるかを調べた質の高い研究は限られています。理屈としては通っているのでおすすめすることはありますが、装置さえ入れれば安心という説明はしていません。噛み合わせの調整や、被せ物の形の設計とあわせて考えるものだとご理解ください。
Q4. 取れる歯とは別の場所に原因があることもありますか。
あります。歯が1本欠けていると、その分の力を他の歯が引き受けます。負担が偏れば、そこに集中します。ですから当院では、取れやすい歯だけでなく、歯列全体を見ます。失った部分をどう補うかから考え直すことで、取れやすさが変わることがあります。1本の問題として見ていると、原因にたどり着けないことがある、ということです。
※お口の状態には個人差があり、適した治療や結果は人によって異なります。検査・診断のうえ、費用・期間・主なリスクをまとめてご説明します。装置を外した際に、むし歯や歯の割れが見つかり、治療計画が変更になる可能性があります。自由診療の場合は保険適用外となります。
監修者情報

EDEN DENTAL OFFICE (エデン デンタル オフィス)
院長 村井亮介
名古屋中区の伏見駅から徒歩2分の「エデンデンタルオフィス」では、米国補綴専門医の資格を持つ院長が、10年、20年先を見据えた精密な治療を提供します。歯科医院特有の緊張感を和らげるため、家族のように寄り添う丁寧な対話を重視。患者様の背景や「どうなりたいか」という想いを深く汲み取り、できる限りの最高の治療クオリティーを常に心掛けております。
経歴
- 愛知学院大学歯学部歯学科卒業
- 大手歯科医療法人勤務
- インディアナ大学歯学部補綴科卒業
資格
- 米国補綴専門医
所属学会
- 日本補綴歯科学会
- ACP american academy of prosthodontics member
- ITI international team
for implantology 会員 - AO academy of
osseointegration 会員
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インプラントをはじめ、審美補綴や義歯などの外科的治療に関するご相談を承っております。その他の治療内容についてもお気軽にお問い合わせ下さい。



