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噛むことと認知機能|研究はどこまで分かっているか
噛むことと認知症の研究が、いまどのあたりにあるのか
噛むことと認知症の研究は、関連が報告されている段階にとどまっています。歯を失っている人のほうが認知症がやや多い、という大きな研究はあります。ただ、どちらが先なのかまでは示されていません。名古屋で噛む機能と認知症の研究について調べている方に、先にお伝えしたいのはこの点です。歯科治療で認知症を防げるという結論は出ていません。この記事では、何がどこまで報告されていて、何がまだ分かっていないのかを分けて整理します。
この記事でわかること
- 歯の喪失と認知症の関連について、報告されている数値の大きさが分かります
- 関連が報告されていることと、原因だと示されたことの違いが分かります
- 介入研究の結果がまだ出ていない状況が分かります
- 相談の前に、ご自身で整理しておけることが決まります
関連そのものは、繰り返し報告されています
歯の数が少ないことと、認知症や認知機能の低下との関連は、多くの研究で報告されてきました。
いちばん規模が大きいのはLiらの研究(Frontiers in Neurology、2023年)です。18の研究をまとめたもので、歯を失っている人では認知症が1.15倍ほど多かったと報告されています。認知機能の低下では1.2倍ほどでした。
Chenらの研究(Frontiers in Aging Neuroscience、2018年)では1.34倍でした。Dioguardiらの研究(Dentistry Journal、2019年)では1.52倍、歯が1本も残っていない場合は2.26倍とされています。
数字に幅はありますが、向きはそろっています。ここまでは、報告されていることとして受け取っていただいて構いません。
この1.15倍という大きさを、先に感覚に直しておきます。100人のうち10人が認知症になる集団があったとして、1.15倍なら11人か12人になる、という程度の差です。倍に増えるという話ではありません。数字を見て驚かれた方には、まずこの大きさをお伝えするようにしています。
ただし、どちらが先かは示されていません
問題はここからです。関連が見えるということと、原因だと分かったということは、別のことです。
歯が少ない方に認知機能の低下が多く見られたとして、歯を失ったことが先だったのか、認知機能が下がったことで歯の手入れが難しくなったのかは、多くの研究の設計では区別できません。教育歴や全身の病気、生活習慣といった、両方に影響する要因が背景にある可能性も残ります。
日本補綴歯科学会誌に載った木本克彦の総説(12巻2号、2020年)は、この点をはっきり書いています。咀嚼と認知症・認知機能との関連については支持する報告が多いとしたうえで、その根底にあるメカニズムは解明されていない、としています。学会誌の総説がそう書いているということを、そのままお伝えしておきます。
全体で考える理由は、予防効果とは別のところにあります
こう書くと、では歯を治す意味はないのか、と思われるかもしれません。そうではありません。ただ、理由の置き場所が違います。
噛める状態を保つことの意味は、食べられるものが増えることや、栄養の摂り方が変わることの側にあります。その部分は数値でも示されています。食事と生活の変化については別の記事に整理しました。この記事は認知機能に絞っていますので、食事の話はそちらに委ねます。
痛む場所を1本ずつ治していく進め方では、噛む機能が全体としてどうなっているかは把握できません。噛める状態を長く保つには、どこで噛んでいるか、力がどこに集まっているかを全体で見る必要があります。これは認知症とは関係なく成り立つ話です。研究の結論を待たなくても、いま説明できる理由がここにあります。
数字を、読み方ごと見ていきます
調整すると、数値は下がります
ここがこの記事でいちばんお伝えしたい部分です。Fangらの研究(BMC Psychiatry、2018年)は21の研究をまとめて、同じデータから二つの数字を出しています。
何も差し引かずに数えると2.6倍でした。年齢や教育歴といった別の要因を差し引くと、1.6倍まで下がります。
差し引く、というのは統計の上での作業です。年齢が上がれば、歯を失う人も増え、認知機能が下がる人も増えます。年齢の影響をそのままにすると、歯と認知機能が直接つながっているように見えてしまいます。その重なりを減らした後に残ったのが1.6倍という数字です。
つまり2.6倍と1.6倍の差の分は、歯を失ったこと自体ではなく、背景にある別の要因が担っていた部分だと考えられます。フルマウス治療を検討されている方が数字を見るときも、この差は覚えておいてください。
もう一つ、数字の形にも注意が要ります。この分野の論文には、オッズ比・リスク比・ハザード比という似た指標が混ざって出てきます。計算の仕方が違うので、厳密には並べて比べられません。この記事で「何倍」と書いているのは、そのどれかを大まかに揃えた言い方だとお考えください。
もし記事や広告で「2.6倍」という数字だけを見かけたら、差し引く前の値ではないかを確かめる価値があります。同じ研究から出た数字でも、どちらを引用するかで印象はかなり変わります。
研究どうしのばらつきも大きいのが実際です
Ohらの研究(BMC Geriatrics、2018年)は11の研究をまとめて、歯が多く残っている人のほうが認知症の発症が少なかったと報告しています。
ただしこの研究には、但し書きが付いています。まとめた研究どうしの結果がどれだけばらついているかを示す指標が、9割を超えていました。結果がばらばらなまま平均を出しても、その平均が実態を表しているとは限りません。
こうした但し書きは、論文の本文に小さく書かれていることがほとんどです。見出しの数字だけが独り歩きしやすいのは、そのためでもあります。数字を見たら、その横に但し書きがないかを探す。この分野はその読み方が要ります。
研究の方法ごとに、言えることが違います
| 研究の方法 | この方法で言えること | 注意点(限界) |
|---|---|---|
| 横断研究 | 同じ時点で、口の状態と認知機能が一緒に見られる頻度 | どちらが先かは分からない。認知機能の低下が先だった可能性も残る |
| 前向きコホート研究 | 先に口の状態を測り、後から認知機能を見る順番を確保できる | 測っていない要因の影響を除き切れない。調整の仕方で数値が変わる |
| メタ解析 | 複数の研究を統合した全体像 | 元の研究の質とばらつきに左右される。Oh ら2018では結果のばらつきが非常に大きい |
| ランダム化比較試験 | 介入した群としない群で結果が変わるかを確かめられる | このテーマでは結果を確認できていない |
※スマートフォンでは表を横にスクロールできます
de Smitらがまとめた調査(The Journal of Nutrition, Health and Aging、2024年)を見ると、この分野の偏りが分かります。集めた34の研究のうち、27件は同じ時点で両方を見ただけの横断研究でした。順番を確保できる前向き研究は5件です。その5件では、噛む機能の低下がその後の認知機能の低下と関連していたと報告されています。
Nagataniらの研究(Experimental Gerontology、2023年)は1,410人を追いかけ、期間中におよそ5人に1人が軽度認知障害を発症したと報告しています。口の機能が落ちていた人では、他の要因を差し引いた後も発症が多かったとされています。
この記事で答えられないこと
噛めるようにしたらどうなるか、という問いには答えが出ていません
ここは正直に書きます。読者の方がいちばん知りたいのは、おそらく「では治せばどうなるのか」だと思います。この問いに答えるには、噛む機能を回復させた群とそうでない群を比べる介入研究が要ります。
Hedberg らは2021年に、口腔リハビリテーションの後の認知機能の変化を調べるランダム化比較試験の研究計画をBMC Oral Healthに公表しています。予定していた被験者は80名です。ただしこれは研究計画であって、結果ではありません。今回調べた範囲では、結果の公表を確認できませんでした。
ですので、歯科治療によって認知機能がどうなるかについて、この記事はお答えできません。予防できるとも、できないとも書けません。分からない、というのが現時点の答えです。
分からないと書くのは歯切れが悪いかもしれません。ただ、確かめられていないことを確かめられたように書くと、後で判断材料が狂います。
この種の問いに答えるのが難しい理由も、少し補足しておきます。認知機能の変化は年単位で進むため、追跡の期間が長く必要になります。噛む機能を回復させる治療は、受ける方の状態によって内容がかなり違うため、そろえて比べることも簡単ではありません。研究が進んでいないというより、設計が難しい領域だとお考えください。噛む機能を回復させないままにする群を作ること自体にも、慎重な検討が要ります。困っている方の治療を先延ばしにするわけにはいかないからです。研究の進み方が遅く見える背景には、こうした事情もあります。
数字を見て不安になった方へ
親御さんの歯が少ないことを心配されている方、ご自身の残っている歯の本数を数えて不安になった方もいらっしゃると思います。
数字をもう一度確認します。報告されているのは1.1倍から1.3倍ほどです。これは、歯を失った方が高い確率で認知症になるという意味ではありません。集団全体で見たときに、わずかな偏りがあったという意味です。ご自身やご家族の将来が決まる数字ではありません。
もうひとつ申し上げておきたいことがあります。歯を失った経緯を悔やんでいる方に、この数値をお見せするつもりはありません。過去の選択を責める材料として使う数字ではないからです。私がこの数値を挙げているのは、強い言い方の情報に出会ったときに、ご自身で落ち着いて読める材料を持っていただくためです。
| 項目 | いまの状況 |
|---|---|
| 歯の喪失と認知症の関連 | 複数のメタ解析で報告されている |
| 咀嚼機能の低下と認知機能低下の関連 | 前向き研究で関連が報告されている |
| メカニズム | 解明されていない |
| 因果関係 | 示されていない |
| 噛める状態に戻した場合の変化 | 介入研究の結果を確認できていない |
| 歯科治療による認知症の予防効果 | 示されていない |
※スマートフォンでは表を横にスクロールできます
持病がある方の歯科治療をどう組み立てるかは、別の記事に整理しています。
年齢を重ねてからの治療をどう設計するかという視点も、別に一本あります。
相談の前に、ご自身で整理しておけること
- ☑ いま何本の歯で噛んでいるか。正確でなくて構いません。おおよそで大丈夫です。
- ☑ 食べにくくなった食品があるか。具体的な食品名が挙がると、機能の把握が進みます。
- ☑ 左右どちらで噛んでいるか。片側だけで噛む習慣は、力の集まり方に関わります。
- ☑ 飲んでいる薬とほかの持病。順序の設計に直接関わります。
- ☑ 何を心配して調べ始めたか。心配の中身によって、お伝えすべきことが変わります。
私が数値を説明するときに気をつけていること
関連と原因を分けるのは、診断そのものです
私は米国のインディアナ大学大学院で補綴学を3年間専攻し、MSDとCertificate in Prosthodonticsを取得しました。そこで繰り返し求められたのが、見えた所見と、その原因を分けて考えることでした。
たとえば、ある奥歯だけが大きくすり減っていたとします。それは所見です。原因は、その歯にあるとは限りません。前歯の当たり方や、失った歯の位置、噛む力の流れが背景にあることが多くあります。所見と原因を混ぜてしまうと、すり減った歯だけを直して終わり、という対処になります。
噛むことと認知症の話も、構造は同じです。関連が見えたことと、原因が分かったことは違います。この線を越えない説明を心がけています。
診療室でも、この分け方を口に出すようにしています。検査の結果をお見せするとき、これは所見です、これは私の推定です、と言い分けます。混ぜて話したほうが説明は短く済みますし、説得力もあるように聞こえます。ただ、後で予想と違う経過をたどったときに、どこがずれたのかを一緒に振り返れなくなります。分けて話しておくと、計画を修正しやすくなります。
ゴールを決めてから、最初の1本に触れます
指導医からは、1本の歯を診る前に顔と噛み合わせの全体を診ろ、と教わりました。米国の治療計画の授業は、個々の歯の治し方よりも、治療の順序をどう決めるかに大半の時間が割かれていました。
驚いたのは診断の文化です。お口全体の治療では、完成形の模型を先に作り、ゴールを患者さんと共有して合意してから、最初の1本に着手します。ゴールを決めずに走り出さない、という考え方が徹底されていました。
この順番は、フルマウス治療のように口全体を扱う場面ほど効いてきます。噛む機能を長く保つという目的にも、そのまま効きます。どこで噛むのか、力をどこで受けるのかを先に決めておけば、後から場当たり的に足していく必要がなくなります。長い経過を見てきて分かったのは、全体の設計をせずに部分的な修理を重ねた口は、数年後にまた別の場所が壊れる連鎖を起こしやすいということです。壊れた場所は結果であって、原因は噛み合わせ全体の力の流れにあることが多いのです。ここでも、所見と原因を分ける話に戻ってきます。
帰国してからは、補綴の設計や噛み合わせ、治療計画について歯科医師向けのセミナーや講演も行ってきました。そこで話題になるのも、目の前の1本をどう治すかではなく、どの順番で何を決めるかです。日米の両方の現場を経験して感じるのは、順序の設計は技術というより診断の一部だということです。
仮歯で、実際に噛めるかを確かめます
仮歯は仮の歯ではなく、完成形のテスト走行だと教わりました。噛み合わせの高さ、発音、見た目を仮歯の段階で十分に検証し、答え合わせが済んでから最終の歯に置き換えます。
この工程があるおかげで、噛めるかどうかを想像ではなく実際の感覚で確かめられます。研究の数値では分からない、その方にとっての噛みやすさが分かる場面です。私は、数値で語れない部分をここで埋めるようにしています。何が食べやすくなったか、どこが当たるかを仮歯の期間に伺い、その内容を最終の設計に反映させます。統計の平均値ではなく、その方の口で確かめた結果を優先するという意味でもあります。
噛み合わせと体の不調の関係についても、確かめられている部分とそうでない部分を分けた記事があります。この記事と同じ読み方をしていますので、あわせてご覧いただくと分かりやすいと思います。
名古屋で噛むことと認知症の研究をどう受け止めるか
噛む 認知症 研究というテーマで調べると、強い言い方の情報にも行き当たります。整理すると、関連は複数の調査で報告されており、その大きさは1.1倍から1.3倍ほどです。一方で、メカニズムは解明されておらず、因果関係は示されていません。噛める状態に戻した場合にどうなるかを検証した介入研究の結果も、確認できていません。ですので、歯科治療で認知症を防げるとは書けません。名古屋で噛む機能について相談されるときも、私はこの線を越えない範囲でお話しします。そのうえで、噛める状態を保つこと自体には別の理由があります。フルマウス治療を考える理由も、そちらの側にあります。
噛む力と体の状態の関わりを広く見渡したい方は、まとめ役の記事が入口になります。
持病と治療の順序については、別に一本あります。
飲んでいる薬が治療に関わる場面もあります。
見た目の変化を気にされている方は、こちらもどうぞ。
よくあるご質問
Q1. 歯が少ないと認知症になるのですか。
なる、という言い方はできません。歯の喪失と認知症の間に関連が報告されているのは確かですが、その大きさは1.1倍から1.3倍ほどです。集団全体で見たときにわずかな偏りがあったという意味であり、個人の将来が決まる数値ではありません。原因と結果の順番も示されていません。数値を見て不安になられたのであれば、その受け取り方を一緒に整理するところから始めましょう。
Q2. よく噛むことは、頭に良いのでしょうか。
そう言えるだけの根拠は、今回調べた範囲では確認できませんでした。噛むことと認知機能の関連を報告した研究はありますが、噛む回数を増やす習慣が認知機能を変えるかを検証した研究の結果は見つかっていません。よく噛むこと自体は食べ方として悪いことではありませんが、そこに認知症の予防という意味づけを足すのは避けたいと考えています。期待が大きいほど、思ったとおりにならなかったときの落胆も大きくなります。噛みやすい状態を作ることの意味は、食事の選択肢が広がることの側で説明したほうが、実際に感じていただける変化に近いと思います。
Q3. 何年も歯医者に行っていません。今からでは遅いですか。
遅くはありません。名古屋・伏見の当院では、通えていなかった期間について責めたり驚いたりすることはありません。いまの状態から何ができるかを一緒に見ていきます。何本残っているかで受けられる治療が決まるわけでもありません。まずは現状を測るところからで十分です。カウンセリングルームは完全個室、診療室は半個室ですので、周りを気にせずお話しいただけます。Zoomでのご相談も承っています。
Q4. 入れ歯にすると認知機能が落ちる、と聞きました。
そうした因果関係を示した研究は確認できていません。入れ歯を使っている方を含む集団で関連が報告された研究はありますが、入れ歯そのものが原因だと示したものではありません。噛める状態をどう作るかは、入れ歯かどうかよりも、噛み合わせ全体をどう設計するかで決まる部分が大きいと考えています。
Eden Dental Officeは名古屋市中区栄、地下鉄「伏見駅」7番出口から徒歩2分です。完全予約制で、CTと口腔内スキャナーを備えています。初回のご相談は無料です。セカンドオピニオン外来は5,500円(税込)で承っています。
噛める状態に戻す選択肢を、お口を見て具体的にお話しできます。
※お口の状態には個人差があり、適した治療や結果は人によって異なります。検査・診断のうえ、費用・期間・主なリスクをまとめてご説明します。
監修者情報

EDEN DENTAL OFFICE (エデン デンタル オフィス)
院長 村井亮介
名古屋中区の伏見駅から徒歩2分の「エデンデンタルオフィス」では、米国補綴専門医の資格を持つ院長が、10年、20年先を見据えた精密な治療を提供します。歯科医院特有の緊張感を和らげるため、家族のように寄り添う丁寧な対話を重視。患者様の背景や「どうなりたいか」という想いを深く汲み取り、できる限りの最高の治療クオリティーを常に心掛けております。
経歴
- 愛知学院大学歯学部歯学科卒業
- 大手歯科医療法人勤務
- インディアナ大学歯学部補綴科卒業
資格
- 米国補綴専門医
所属学会
- 日本補綴歯科学会
- ACP american academy of prosthodontics member
- ITI international team
for implantology 会員 - AO academy of
osseointegration 会員
CONSULTATION 無料相談・セカンドオピニオン
インプラントをはじめ、審美補綴や義歯などの外科的治療に関するご相談を承っております。その他の治療内容についてもお気軽にお問い合わせ下さい。



